祭り


「おじさん、あとたこ焼き3箱下さい」

「嬢ちゃんそんな持てるか?」

「大丈夫です。まだチョコバナナと広島風焼きとリンゴ飴が待ってるので大丈夫です」

「綿飴とかき氷と焼きそばとイカ焼き持ってよく言うわ…」

「あ、翔ちゃん。ばんはー」

「その翔ちゃん呼びも直らん……?」



両腕にビニール袋を沢山提げ、その身に食べ物の香りを纏っている蛍を
今吉はたまたま見つけてしまった

駅前で開かれる夏祭りの食べ物を制覇すると言っていたあの言葉は本気だったのか…
と、呆気にとられてしまうのも仕方がない



「翔ちゃんは部活の人達と?それとも彼女さん?」

「いーや、息抜きに1人でぶらっと寄っただけや」

「……、寂しいね、翔ちゃん。イカ焼き1コいる?」

「お前に言われとーないわ!てかイカ焼き何個買ってん!?」

「イカ焼きは10コでしょ、で…綿飴3コ、焼きそば5コ、たこ焼き4コ、かき氷山盛り全シロップかけ」

「何をどうしたらそんだけの食いもんがその体に収まるか教えて欲しいわ…」

「胃は4つあります」

「牛か!?」



牛ほど舌長くないよ?と、ベッと舌を出す蛍はいつもと変わらず
何を考えているかさっぱり読めない表情で、次の目的地とされるチョコバナナの屋台へと向かっていた


息抜きに出てきた、と言った今吉だったが
いざ現地に着いてみてから蛍の発言を思い出し、探してみたのは故意だ

だがしかし、この場に自分以外の知り合いがいなくて助かったと心底思う


こんなある種化物と呼べるツレを誰が好き好んで引っ張るものか



「祭言うんなら他にも色々あるやろ?射的とか金魚すくいとか…」

「コルクは食べられないし、金魚はオイシくないよ」

「食べたことあるんか…!」

「多分」

「ないんかい!!」



と、そこでピタリと蛍はその足を止め
どうしたんだと今吉が振り返り見てみれば

フラフラと近くにある飲み物屋に歩いて行くではないか



「…。せや、わしも何か飲みもん…」



喉の渇きを今やっと思い出し、財布を出してお茶を購入したのだが
ビールという張り出しを目にしてまさか…と隣にいる蛍の様子を見てみた


が、



「きゅうり、10本下さい」

「じ…10本…?えっと…1500円になり…ます」

「…小銭めんどくさいから20本にしようかな…そうすれば3000円に…」

「いいよ!お財布貸して、ね?」

「……………」



きちんときゅうり10本と1500円とを交換した蛍は
その口に2本のきゅうりを同時にかじり

またのそのそとゆったりとした足取りで先へと向かい始めた



「……………」

「あ、あの子凄いねぇ…キミ、彼氏?」

「…ちゃいます。」



りの、怪物



「……………」

「おじさん、チョコバナナ15ほ…」

「えぇ!?」

「清水、まずは片手開けたらどや…」

「…………。じゃあ3分待ってて下さい」

「3分…て、3分で何食うつもりや?」

「今持ってるの全部」

「全部!?」

「翔ちゃんもいります?きゅうり」

「の棒やないか!!いらんわ!」

2012/08/25

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