かき氷


「下駄大丈夫か?」

「うん。久しぶりだけど、割と」



カラカラと石畳の道を下駄で歩き進める蛍


夏祭りが催されている境内では多くの人で賑わっていた

すれ違う人と肩をぶつけないようにと注意を払いながら
繋がれたその手に先導され、奥へ奥へと入っていく



「あ…」

「ん?どうした?」

「……、いや。何でも…」

「あぁ、アレか」



何でもないと答えるより前に、視線をずらしたというのに森山はそれを見つけてしまったようで
蛍は別に良いと遠慮がちに言うも、半ば無理やり彼女が目に留めた屋台まで行ってしまった



「はい」

「はい…って、え?買ってきたの!?」

「あぁ。食べたかったんだろ?」

「そ、そうだけど…あ、お金っ」

「そんなこと気にするな。早くしないと溶けるぞ?」

「…じ、じゃあ…」



いただきます。と、その手に受け取った物はミルクかき氷というもので
名前の通り、ミルクで作った氷から作られたかき氷だ

少し珍しいからと目に留めたのだが、まさか本当に買ってくるとは…と
森山に悪いなと思いながらも、一口口に含めば



「………」

「どうだ?」

「…お、おいしい…です」

「そうか」



良かった。と笑う森山だったが
蛍の中では嬉しさよりも、少しばかり悔しさが勝っていた


夏祭りに行こうと提案したのは彼の方で
蛍が浴衣を着ていこうかと悩んでいた時に勧めてきたのも彼で
2人共慣れない格好をしたら何かあった時に困るからなと私服で来た彼は

いつもより、何に関しても“好調”だった



「由孝」

「ん?」

「…何かネットでも見た?最近」

「いいや?今回はネットは見てないが…」

「そう………」



“今回は”と素直に答えるところ、嘘は吐いていないらしいが



(本当に悔しいぐらい…リードされてるっ……)



他の女の子に目移ろいすることも無く、恋人をしていられることに
何故涙が出そうな程嬉しくなるかは、言わずもがな…



「うん。嬉しいから由孝にもあげるよ、このかき氷おいしいよ」

「?…嬉しい?」

「いいからいいから」

「そうか?…じゃあ……」

「………、?」

「?」

「え、いや…。何を待ち構え…」

「何って、蛍が食べさせてくれるんだろ?」

「は…!?な、何でわた…私がっ……」

「こういうのは定番だからな。恋人の」

「どや顔で何言ってんのよ!?た、食べさすって…」



だがしかし、こういうムードというか甘い雰囲気になることが少ない為に
蛍はこのような場面が苦手だ

それでも、赤くなりながらも氷を掬ったスプーンを差し出せば
森山は何とも涼しげな表情のまま、それを口にした



かきに、赤いシロップを



『で、順調みたいっスね…何とか』

「あぁ、お前のおかげだ。で、次はどうすればいい?」

『そうっスね…今俺らたこ焼き屋にいるんで、そこに来ないように巡回しながら花火を待てばいいと思うっス』

「そうか…よし。わかった」

『じゃあ頑張って下さいっス…て、あれ?…え?』

「ん?どうした、黄瀬…って、あれ?蛍…?どこに…」

『なるほど、そういうオチなのね…由孝君』

「…………」

2012/08/25

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