自習室


カリカリ、カリカリ…と
シャーペンがノートの上を走る音だけがその空間に聞こえていた


夏休み中は自習室が解放され、図書館と同様に冷房も完備されて、受験生が席を埋めていた

人数は比較的疎らで、多くは図書館を利用しているのだろうが
蛍はこの自習室を使用して勉学に勤しんでいる



「………………」



しかし、その理由は不純な物だけに
ペンを走らせるその手は時たまピクリと一瞬だけ停止するのだ


いつも同じ、決められた席に着いてしまうのはクセであり、また故意でもある

1つ列を挟んで隣に座る彼


今吉という男がいるから。と言えば全てわかるだろう



(…しまった……、)



途中でペンを止め、意識を隣に一度移したために今まで取り組んでいた途中式が
プツリと自分の中で切れてしまった

書き途中の、自分の文字を眺めてもトランス状態が解けたように
自分でも訳がわらない状態となってしまい

ハァー…と小さくも、深いため息を吐いて
丸めていた背筋をピンと伸ばす



「何や」

「っ!?」

「躓いたんか」

「は…はい」

「何で敬語になるん?変な奴やなぁ…」



わはは、と笑う今吉だったが
突然声を掛けられた蛍はビックリして肩を揺らした



「急に固まりよるからなぁ」

「あ、…えっと……」

「ま、まだ時間はあるし…」


頑張りや


それだけ言うと、また彼は自分のノートと向き合ってしまい

蛍はキョトンとした顔のまま、何も考えられなかった


だがハッと我に返ると、ひとまずガタンと席から立ち上がって
広げた筆記用具はそのまま、自習室から退室する



「……はぁ、バレてないよね…」



自習室前から少し歩いて、グラウンドの見える所まで来て
ガララと窓を開けると、柔らかい風がふわりと冷えた肌をなぜる


何故、回答中に自分がピタリと動作を止めたのか、深くまで探られずに良かった…
と安堵しながら、青く広がる空を仰いだ


ミーンミンミンミン…という蝉の鳴き声がそのまま空に溶けていく



「……ハァ…、暑いな…」



バクバクと煩い心臓と、赤くなる耳とを誤魔化すわけではないが

ジリジリと微かに唸るアスファルトを眺めてそう呟いた



室の、起爆スイッチ



「なら閉めたらええやん」

「ぅおわぁぁあああ!ななな、何っ!?」

「っ!?…コッチが吃驚する勢いやで…今の」

「じ、自習室にいたんじゃないの…?」

「いやぁ…ちぃとばかし息抜きにな、出てきたんや」

「そ…そう、です…か……」

「隣、ええ?」

「………は、はい…」

2012/08/23

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