金魚


「ウチの寮って、ペット駄目だったっけ?」

「犬や猫はな。金魚くらいなら良いんじゃないか?」

「そっか…」

「何だ?取らないのかい?」

「私金魚すくい下手くそだから…いくらポイがあっても足りないよ……」



駅前の大通りに立ち並ぶ屋台の列とカラフルな提灯の吊されるワイヤーが
風に吹かれてユラユラと揺られる


せっかくの夏休みなんだから、と言い出したのは蛍だった

一夏の思い出を部活だけで埋めてしまうのも如何なものかと、なるべく近場の夏祭りに行くことを所望する

が、



「行って何をするんだ?」



と、早速大人な対応をされてしまう



「な、何って…屋台見たりとか」

「屋台が見たいだけならパソコンで見ればいいだろう?」

「そ、そりゃあ生の方が…!」

「だったら文化祭まで待ってくれ。屋台ならそこでも出るだろう」

「……えっと…その…」

「第一、着られる浴衣も持ってない。寮は夜外出禁止だろ?昼間に私服で行くしかないな」

「……………」

「?」

「お願いします!!デートらしいデートもたまにはしたいですー!!」



して、現地



「だからって…こう、夕方に来るとか…さ」

「昼間が一番空いているんだ。わざわざ人の多い時間に来てどうする」

「……そうですね…」



金魚すくい屋の前に蛍はしゃがんで水中を優雅に泳ぐ数々の金魚を眺めるも

赤司は隣に立ち、ぐるりと屋台の列を見るばかりだ


恐らく、どこに何の屋台があるかを把握し
さっさと次の行動に移れるようにとでも考えているのだろう



「………………」



水面に反射して見える、そんな彼の姿に蛍は口を尖らせ黙り込んでしまう

腕時計の秒針はチクチクと一定のリズムで先を急ぎ
大通りを行く疎らな通行人の足並みがやけにゆっくりに感じられた



「……征十郎君は、金魚すくい得意?」

「いや、得意って程じゃあない。…昔は得意な奴がいたしね」

「中学の時の友達か…。じゃあ射的とかは?」

「射的も得意な奴だったよ」

「そっか…征十郎君自身、あんまりこういう所来ないもんね…。うん、行こっか」

「……………」



よいしょ、と腰を上げれば屋台のおじさんからやらないのかい?と問われるも
大丈夫です。と手を振って答える

しかし、



「1つ、ください」

「はいよ、300円」

「え…征十郎君……?」



反対に、今度は赤司がしゃがみこんで
代金を支払い、ポイを手にとった



「得意じゃないが、苦手だとは言ってないだろう?」



真っ赤な魚の、尾びれ



「本当に一匹で良かったのか?」

「一匹だから風流なんだよ。管理人さんに言えば鉢とかくれるかな…」

「何かしらはあるだろう…」

「じゃあ、赤い金魚だし…征十郎君だと思って大事に育てます!」

「それじゃあ、殺さないように気をつけるんだよ?」

「え………?」

「だって、ソイツは僕なんだろ?」

「え、……え…」

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