浜辺


「う、海に行きたい…!」

「良いですよ」



二つ返事から始まった夏休み


バスケ部の練習があるからと断られるのではと中々誘うことが出来なかったが
蛍は終業式の日に思い切って話を持ちかけてみたのだ

すると、黒子は顔色一つ変えることはなく頷いて
それじゃあいつにするか、等といったコトを口に出すところ
彼も乗り気だったに違いない


いつもとは違う環境で、2人きりで
そのコトにどれだけ胸を躍らせただろうか…


そして当日、浜辺にて



「……ですよね」



到着から僅か10秒



「テツヤ…どこ行ったの……」



お決まりのパターンだった



(おかしいな…ずっと離れないように隣にいたはずなのに…)



手でも握っていれば離れずに済んだかもしれないのに…

そう考えながらも、闇雲に探しても迷子になってしまう為
とりあえずは海の家に行くことにした


老若男女、人並みを掻き分けて海の家に到着すると
カップルたちが浮き輪を借りたりをしている



「…………」



その光景に一瞬目をとられたが、気にしまいとフイと頭を振る

と、

迷子らしき男の子が半べそをかいて1人、椅子に座っているのを目撃した


親は?1人でここまで?
そんな疑問が次々に湧き出す中、自分もその子と同じだな……と

重ねて見てしまうと、不安がまた押し寄せてきた



「…通じるかな……?」



電波が1本しか立っていない携帯を手に、ダメ元で発信してみる


RRRRというコール音と共に、また近くでも誰かが同じように携帯にかけられているのか
着信音が聞こえてきた


が、



『もしもし』

「あ…?テツヤ君…!?い、今どこに…」

『どこって、…右を向いてください』

「ん?右?」



ガチャリと繋がった音と、聞こえていた着信音は同時に止み

言われたとおり右へ首を回すと



「うわぁああ!」

「…気付かなかったんですか?」



すぐ隣に、黒子はいた



「ななな、何で…さっきいなかったよね!?」

「勝手にはぐれてスミマセン…迷子を見つけて、それで…」

「迷子?」

「あの子です」



そう黒子が指差す方へ視線を移せば、先ほど見た男の子が
はぐれてしまっていた両親と何かを話していた

しかし安心したからか、男の子は堪えていたはずの涙を流し始める



「あ…あの子……」

「お父さんとお母さんが今来たので…、良かったです」

「来るまで待ってたの…?」

「はい。でも、蛍さんに声をかけ忘れてしまって…スミマセン」

「………、ううん」



困った時のクセで、頬をかく黒子は俯きがちにそう言ったが
蛍は口元を緩めて首を振った



「テツヤ君らしいから、大丈夫」

「……?」

「やっぱり優しいね」



辺の、拾い物



「でも次からは声かけてね!私が迷子になる所だったんだから…」

「だから海の家に?」

「そうだよ。せっかく来たのに…迷子で時間潰してちゃ意味無いもん」

「……………」

「?」

「良くできました。」

「もっ、元はと言えばテツヤ君が勝手に離れたからでしょ!?子供扱いしないで!」

「それは…、スミマセン」

「かき氷おごってよね!ブルーハワイ!」

「…はい」


2012/08/19

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