キョウシツ


「あっちーな…、何で冷房ついてねぇんだよ」

「今ちょっと故障してるらしくって…」

「じゃあ直せ、今」

「いや無理です!」

「は?じゃあ何でお前ここにいんだよ?」

「補習の為です!スミマセン!!」



目の前でくるりとシャーペンを回す花宮に、ゴンッと頭を打ち付けるほどの勢いで…いや実際に打ち付けたが
蛍は頭を何度も下げていた


全国的に、夏休みである

そして前期成績不振者にはこの時期、補習授業というものがついて回るのは
最早この国の伝統とも言えるだろう



「で、何で俺が駆り出されるのかがわからねぇよ。先公はどうした」

「帰省中だそうで…」

「で?」

「それで、“知り合いに教えてもらえる人は?”って聞かれて、“知り合いの中では花宮君が一番頭良いです。”って答えてしまって…」

「帰るか」

「ままま、待って!下さい!!」



立ち上がろうとする花宮の腕を必死に掴むと、暑苦しいと文句を言われペイと引っ剥がされてしまったが

何とか彼をこの場に留めさせることが出来た


それから問題集とノートを卓上に、問題を解き始めれば早速躓いてしまうのだが
そんな彼女の姿を見てか、花宮は嫌そうな…面倒くさそうな声のトーンで

ぽつりぽつりとヒント等を与えてくれ…


予定よりも随分早く本日のノルマが終了した



「で…出来た……!終わった…!」

「見りゃわかる」

「花宮君、ありがとうございます…!嫌々だったのに…」

「……お前さ、」

「あ、はい」

「本当に嫌だったら、とっくに俺、帰ってるだろ」

「……え…、」



椅子に斜めに腰掛けたままの花宮は、そう頬杖をついたまま言った

しかも、



(わ…笑って……た…?…今)



滅多に、否
今まで見せたことのない、柔らかい笑みを目撃して

顔が熱くなるのがわかった



「?…どうかしたか?」

「い、やっ…あの…その……」



ドキドキと高鳴るその鼓動に自身も何故、何故?と首を傾げるが
原因がわかるくらいで理由は全くわからないままだ



(う、そ……い、いや!ただちょっと珍しい物見てビックリしただけで…)



どうにかその混乱する脳内に反響する先程の花宮の台詞をかき消そうと苦悩するも
思ったように上手くいかない



「で?」

「え…は、はい?」



が、しかし

差し出された手を辿り、もう一度彼を見れば


“いつも通り”だった



「えっと…花宮、君」

「何だよ」

「えと…この…手、は……」

「授業料」

「へ?」



そして次に見られた笑顔は、先程の物が完全に“芝居”だったんだ。とわからせる



「誰がただで教えるっつったよ」



2人っきりの、恐喝(キョウシツ)



「色々サービスしてやったんだからサービス料も払えよ」

「えぇ!?サ、サービスって……?」

「ふはっ、真っ赤になってて、しらばっくれんのかよ?」

「こ…これはそのっ……!」

「親切に教えてやったんだ、高くつくからな」

2012/08/17

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