日焼け


「征十郎さん」

「何だい?」

「確かに私は今月は火の車だと言いました」

「そうだね」

「でもこのバイトはないと思います」



青い空の元、子ども達は元気良く
子供用プールでバシャバシャと泳ぎ遊んでいる

はたまたその脇では中学生男児らがビーチボールでバレーをし
隣の50mプールでは年齢問わず、地元の人間で文字通り溢れかえっていた



『はーい、そこの子浮き輪の上に座るのやめてねー』

「えぇー…」

『ひっくり返ったら頭打っちゃうでしょー?』

「はー…い」



拡声器でそう注意を促せば小さな子供は大人しく言うことを聞くのだが
その様子に赤司は目を丸くして驚いた



「なに?」

「蛍は子供の扱いに慣れているんだな…ってね」

「扱いって…普通でしょ?」

「僕ならそのまま溺れても自己責任なんだから助けないけど…」

「仕事放棄じゃないですかソレ!!」



配られたトランシーバーを首から下げて、赤司と蛍は市民プールでバイトをしていた

と言っても、もし溺れた客がいた場合は助けることが出来ないため
そのような資格を持っている監視員も、脚の高い椅子に座ってすぐ側にいる



「ところで蛍」

「何ですか」

「絶対にそのシャツだけは脱ぐことは許さないからね」

「…あの、ずっと思ってたんだけど…」

「何だい?」

「何で征十郎だけ普通に水着姿に上着なのに私はシャツまで着なきゃいけないの?暑いんだけど…」



パタパタとシャツを仰いでベタベタとへばりつく汗に風を送ると
バシンと少し乱暴に何故か手を叩かれて、その動作を止めさせられてしまう

先ほどからこればかりじゃないか、と少し睨むも
赤司は何食わぬ顔で、もうこちらなど見ていなかった



「……………」

「……………」



お互いに黙りを決め込んでしまい、すぐ近くにいた子供が物珍しそうに2人の様子を眺めていると
ピピィーッと監視員の笛が鳴り、客は次々とプールから退散する

ちょうど時刻は昼時になったため、バイトの2人はそのまま昼休みとなるのだが
蛍はまだジッ…と赤司を睨みつけたままだ



「………………」

「黙秘ですか、征十郎さん」

「キミはまだ僕の彼女だという自覚が足りないんじゃないか?」

「え…?十分自覚してるつもりだけど…何か…」



何かが足りないのか?と首を傾げると

いつの間にか赤司の顔が目の前にあり、思わずうわっと声を上げてしまう


それに眉間にシワを寄せる彼ではあったが、小さくハァとため息を吐くと
蛍の手首をその手にとった



「他の人間がいる前で、自分の彼女の水着姿を晒したい男がいると思うのか。ということだ」

「………、なるほど」

「スクール水着なら問題ないけどね」

「それは私に問題があります!」



焼けに十分、気を付けて



「で、どうして急にバイトなんかしたいって言い出したんだ?」

「え…それは……」

「何だい?言いにくい…、疚しいことなのか?」

「別に疚しくなんてないけど…」

「じゃあ、言え」

「……、せ…征十郎さんに…」

「僕に?」

「…ほ、ほら…突発的プレゼントでビックリさせようと…そしたらお金足りなかったし…って」

「…、随時と可愛いことを言うんだな。蛍」

「……自白させられた気分ですが」

20120/08/17

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