祭囃子


「…………」

「おい、無視してんじゃねーよ」

「…何か用ですか?」

「ふはっ、偉く他人行儀じゃねぇか」



境内で開かれた夏祭り

夏の蒸し暑さと人々の賑わいと…迷子と



「で、お前誰と来てたんだ?」

「…言わない」

「はあ?何だよ、元クラスメートに言えねー相手なのか?」

「中学は確かに一緒だったけど、別に仲良かった訳じゃないじゃない…言わない。」

「………」

「………」

「…木吉か」

「え」

「うわっ、マジかよ…お前アイツと付き合ってんのか……」



夏祭りで浴衣を来て、1人階段に腰を下ろして不安げな顔をする人間を見れば
誰がどう見ても連れがいるんだと判断できるだろう

蛍もそれだった



「どーせひよこが売られてんの物珍しそうに眺めててはぐれたんだろ」

「…そ、…そんなんじゃ、ないし……」

「欲しそうに見てたから一羽だけ買ってやった」

「えぇ!?」

「なんて言うかよ、ばぁか」

「…………、死ね。」



花宮と蛍は同じ中学出身で
木吉と蛍は同じ高校、恋人で
蛍は木吉と花宮の関係と、一連の事件を知っている

花宮のやり方は中学の頃からで知っていたし、とやかく口を出すつもりはなかった
そしてまた、木吉が膝を壊してしまった事に関しても何も言えずにいた



「木吉(アイツ)にベタ惚れしてんじゃねーのかよ」

「どうして?」

「俺に文句の一つも言わねぇじゃねーか、今でも」

「……」



とりあえず一緒に探してやるだとか、何の恩着せがましか気紛れかはわからないが
2人は人並みをゆっくり縫いながら歩いていく


しかし、花宮からの問いに蛍は俯いて黙ってしまい
黙るな、という声掛けにやっと応じた



「なんかさ、わかんないんだよね…」

「はあ?」

「鉄平の考え。壁っていうのかな…なんか踏み込ませてくれないっていうか」

「……」

「膝のことも、一番には言ってくれなかったし…」

「知るか」

「アンタが聞いたんでしょーが、まろ眉」



と、そこで石畳に足をガッと引っかけてしまい
前に倒れ込みそうになる



「うわっ」



だがグラリとブレた重心はすかさず掴まれた腕につられ元に戻り、転倒せずに済む

それに目をぱちくりとさせて、蛍はマジマジと花宮の顔を見た



「なんだよ」

「い、いや…あ、ありがとう…」

「ったく…ほらよ」

「え?」

「“え?”じゃねぇ。お前に合わせてたらいつまでも俺が帰れねーだろ」



差し出された手をまた見つめ、その手を握るのに躊躇う

そんな彼女の様子に沸々と苛立ちを沸かす花宮だったが
結局、蛍はその手をとった


そして離れないように、と引っ張られていく



「……………」

「悪かったな、俺で」

「…ううん…。花宮…」

「あ?」

「……ごめんなさい…」

「…何が。」



いつも優しくて、自分のことを大事にしてくれるから…強くて、格好良いから

好きになった


それでも、こうして手を差し出してくれることが無かった

いつでも頼って良いとは言ってくれても
私を頼ってくれたことも無く、いつも背中しか見せてくれないことを思い出して

意味の無い雫を落として、それと同時に彼の見えない優しさに


しがみついてしまったなんて…



子が、聞こえない



「蛍!」

「あ、鉄平…!」

「悪い…気付かなくて……」

「ううん、大丈夫。私こそ勝手にはぐれて…」

「あれ…蛍、1人でここまで来たのか?」

「え?…あ、…………うん」

「?」

「……ごめんなさい」

「?」

2012/08/12

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