西瓜


「うわっ…!い、今何かっ、ヌルッて…!」

「あぁ、それ多分魚」

「え、魚も泳いでるんだ…」

「ちっちゃいのだけど、昔からいっぱいいるぜ」



膝下まで水嵩のある川に蛍はスカートの裾が付かないように気を付けながら立っていた

川幅はさほど広くもなく、すぐ脇には高尾が腰を下ろし
同じように足だけを川へ浸けていた



「でも…良かったの?」

「何が?」

「和成君のお母さんの帰省に一緒して…幼なじみって訳でもないのに…」

「いーんだって。俺の両親大歓迎だし、ばあちゃんだって喜んでたろ?」

「うん……、スイカ美味しかったです」

「だろ?」



ニッと笑う高尾につられて蛍も口元が綻ぶ


山に囲まれた、さらには四方を畑に囲まれた小さな村に高尾の母の実家はある

盆の時期に毎年帰省をしているのだが、今年もその予定が立つと
高尾はまっさきに蛍にその話を持ち掛けたのだ


部外者である自分が何故…と初めは断ったのだが、彼の両親はあっさり承諾してくれ

車に揺られること3時間
現地に着いた



「でも一番喜んでたのは和成君の妹ちゃんだったね」

「ほんとなぁー…何か俺より蛍とばっかいたがるし…」

「夏祭り一緒に行こ、って誘われちゃった」

「えぇー!?何それ、俺聞いてない!」



バシャッと波を立てて思わず立ち上がると、ピシャッと小魚も水面から一度跳ね上がる



「でも兄妹ってやっぱりうらやましいな」

「蛍って上も下もいないんだっけ?」

「うん。従姉妹は年が離れすぎちゃってるし…」

「…じゃあさ、蛍はお姉ちゃんになるわけだ」

「………?…私が?何で…?」

「わかんないならそれでいーんだけどさー」

「え、ちょっと…どういうこと?」

「さーあね〜……」



いたずらに高尾はニヤリと口角を上げて川から足を出すと
蛍も急いで上がった

サンダルを履いては来たが足を拭かなければならないが
タオルに手を伸ばす前にそれを高尾が手にする



「はい、足出してー」

「あ、ありがと…」

「いえいえ。あ、そういや夜、池行くか」

「池…?って…ホタルとか…?」

「そっ!」

「見る!」



濡れた足を丁寧に拭いてさらにサンダルまで履かされる蛍は少しばかりこそばゆい気持ちになったが

ここで断っても高尾は頑として譲らないし、何よりどこか満足そうにする彼を見ると
口を挟む余地を感じられないのだ


目の前でしゃがむ高尾の肩に手を押き、体重をかけてようやく歩けるようになる



「うし、じゃあ行くか」

「うん」



真っ白な積乱雲と真っ青な空を真上に
2人はソッと手を繋いで一本道を歩き出した



川と、西と、ホタルと



「そーいや知ってる?アメリカの離婚率って6割なんだと」

「えっ!?…って、急になんで…」

「でも、そん中で“一目惚れで結婚した”人らは離婚率1〜2割」

「そ、それもそれで…」

「俺、蛍に一目惚れしたって言ったよなー」

「う、うん…でもそれが…?」

「なーんでもなーい」

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