*上が新しい。
*詰め込み式
*意味不明多数
男は、男は、男は。
そんな台詞は聞き飽きた。馬鹿みたいだとも思う。
けれども、その台詞は女を排除するものであるかのようで、少し違う。
仲間はずれだと、小さな頃は思っていた。いつだろう、その本当の意味を知ったのは。
力はある。
度胸もある。
覚悟だってある。
けれども覚悟の種類が違うのだ。
信じて待っている覚悟だ。
帰って来た時に、笑顔で迎える覚悟。
男は、男は、男は。
そう言って、迷いも恐怖も全部つっぱねて、自身を奮い立たせて出掛けて行く馬鹿な男たちの言葉を信じている。
「でも、黙って守られてるだけの女じゃないこと位は承知して欲しいわね」
たすきで邪魔な袖をくくり、手にした薙刀を強く握り締める。
あの人達が帰って来る家を守るのは自分の仕事だ。
振りかぶって、そして――
(留守番/お妙)
「死ぬなら私の知らないところで勝手にくたばって下さいね」
爽やかな笑顔だ。
そんな笑顔で、俺達の大事な人に吐き捨てる。
この女にいったいどれだけの価値があるというんだ。
この女はどんな思いで今、この人が会いに来てるのかなんて知らないで、へらへらと笑っているのだ。へらへら、へらへらと。虫ずが走る。
「安心しな、アンタがこの人がくたばっちまうような時に居合わせるわけがねェ」
言うつもりは無かった。
ただ、我慢ならなかった。
俺達が居る限り、くたばらせるわけはねェ。万が一があったとしても、この人をそんな詰まらねェ死に方なんざさせるものか。
パシリ、乾いた音が響く。
目を瞬き、徐々に沸く頬の痛み。手を添えてみると熱。そこでようやく、平手をくらったのだと気付く。
「カッコつけんなら最後までカッコつけなさい」
女の爽やかな笑顔は消えていた。
「それが出来ないなら初めからカッコなんかつけんじゃねーよ、カス」
(あァ、バレてる)
「カスみたいなプライドを無くしちまったら、どんな刀傷喰らうより立ち上がれなくなっちまうんだよ。男っつーのはな」
「だからモテないのよ」
「近藤さんに言ってやってくれ」
「あら、貴方もよ」
近藤さん、アンタ結構見る目あるじゃねェか。
(戦闘前夜/幕末.土方お妙)
何をしてもバカ女のふざけた面が頭にチラついて、イライラが止まらない。
自分が何故こんな不快な気持ちにならなきゃいけないのか。その原因があいつだと思うと更にイライラする。出口が無いイライラ。
振り切るように手近なものに当たるべく、繰り出した脚。正にごみ箱に当たる寸前、そこで止めた。慣性の法則だかなんだかに逆らった為、ぐいりと自分の身体がよろめく。その勢いを使うように、くるりと身を反転させ山崎を蹴った。
ごみ箱を蹴ったらやかましいんだろうな
なんて一瞬思った自分が気持ち悪くて、山崎をもう一蹴り。
「おい、サド」
「…黙れ」
お願いだから、今は何も言うな。
(空回り/沖田総悟)
「僕ですか?就職しようと思ってますよ」
何と無く聞いた「将来どうする」という、3年次に特有のテンプレートになっている台詞を吐いた。「昼飯どうする」といった調子で。
そうしたら返ってきた即答。
姉に苦労させたくない
資格の勉強をしている
家から通えて姉との時間を確保したい。
とか、何とか言ってた気がするがまるで頭に入ってなかった。
何も考えてない自分が、無償に下らないガキに思えて苦し紛れに「そーか」と言う。
言ったのに
「沖田さんは?」
「…世界征服」
無性に、あいつに馬鹿笑いされたくなった。
(正解の無い/沖田総悟)
「しまった」
一瞬の表情の変化にNGゾーンに踏み込んだと知った。互いに深いところには踏み込まない、これで成り立ってる私達の関係が揺らいだように感じた。
一拍おいて元の調子に戻り酷く安堵する。
このままで良い、このままが良い。けれども、揺らぐたびに酷く不安になるのも事実である。
(距離感/神楽)
「何で呼吸してんの」
酸素を取り込むからだと真顔で答えるまでに、コンマ何秒か掛かった。
そのコンマ何秒かの間、生まれたてのような無防備な俺になった。
酸素、と口にした時の俺は、既にいつもと変わらない『沖田総悟』だった。
(呼吸)