「マヨラ…13様?」

ピンチに颯爽と現れた男性は、自分を救った。サングラスで瞳が隠れているが、整った顔立ちだという事は良く分かった。風に靡く黒髪が美しい。役者みたいな男だと思わず見惚れた。

去ろうとする後ろ姿も素敵だな、なんて見詰めていたが、はっと気が付く。このまま、これでサヨナラなんだろうか。


そんなのは、嫌だ。



「私とお付き合いしてくれないでございまするかァァ!?」



瞬時に周りの空気が固まった気もしたが、そんなの知ったことじゃない。時を忘れるような錯覚に陥るほどに見惚れた男性との縁が、これまでなんて嫌だと思った。それだけが全てだ。

見詰めた数秒、彼氏の事など存在すら忘れていた。彼氏だって適当に付き合ってたわけじゃないのに。好きだった。好きだから、遅刻されても苦も無く待てた。脱糞だって気をつかって相手の面子を守った。

つまり、そんな彼氏への気持ちを一切感じさせない程の、恋をしてしまったのだ。


「こんな奴とは別れるでございまするから…!」
「オイ、ちょっと待て…俺は今愛だのなんだの、そういった事に感動してたっつーのに」


「私は恋をするから付き合うのでございまする。ですから、貴方に気持ちが移ってしまった以上、あんな男とは別れるしかないのでございまする」


命短し恋せよ乙女。
花の命は短いの。


マヨラと名乗った男性は、しどろもどろと唸りながら、言葉を探しているようだった。
――断りの言葉を。

思わず瞳が潤む。


「私のこと…お嫌いでござりまするか?」
「――えっ、いや…そーいうんじゃ」

「ひィィィじかたァァァァァァ!!」
「―ッぶね!」

父親の雄叫びが聞こえたかと思った途端轟音が耳をつんざき、視界が黒で遮られる。

「きゃッ」
「オイ、大丈夫か?」
「――マヨラ様……」

背中に小さな衝撃が走る。
気が付けば視界全面に愛しい人が広がっていた。

父がところ構わず撃った銃から、咄嗟に土方は自分に覆いかぶさり、身を呈して守ったのだ。
顔が熱い。

抱き起こされても、暫く黙っていると、何処か打ったのかと心配そうにこちらを覗く視線を感じた。ちらり、とそちらを見て思わず逸らす。顔から湯気でも出そうだ。


「……おい?」
「いやん、でございまするよ」

寄り添って胸に顔を埋める。
直視なんてしてしまったら溶けてしまいそうだから。
「「ひィィィじかたァァァ」」
「何してんのォォ!ちょ、待て!危ねェだろ、アンタの娘さんも居るんだぞコラ!」

「きゃ、駆け落ちでございまするか!?」
「アンタも、お願いだから離せ……!」


再び鳴り響く轟音に、土方が自分を抱え上げ銃撃の中走り抜ける。何だかんだで、自分を守るように走る相手に益々熱は上がる。


「なァ、アンタは…その、もの凄く良い女だと思うんだが……俺には勿体ないというか、あーアレだ、その」
「そんなァ、照れるでございまするよォ!」

両手でほてる頬に手を当てる。やっぱり、熱い。

「…都合の良いトコだけかい摘まんで聞いてんじゃねェェェエ!――…ごほん、だからな…俺には勿体ないっつーか…」

「誉め過ぎでございまするったらァァァ!」

感情が溢れだし、思わず手が空気を切る。
バシン、と結構良い音が鳴り響いた。
















「あーらら、フラれちまいやしたか土方さん。ザマーミロ」

頬に紅く小さな紅葉を咲かせたイロオトコが不機嫌そうにこちらの陳に戻って来た。アンタ真っ黒いから、紅が映えて良いんじゃないかと言ってやれば煩いと一言帰ってくる。女に文句の一つも言えないというのに、帰って来たらこれだと思うと可笑しくて堪らなかった。

姉の姿が一瞬頭を掠め苛立たしくも感じたが、それを押し込める。普通に嫁さんでもとって、尻にしかれてどんなに仕事場で威張っていても、出勤の度に頬に花を咲かせてくる土方も面白い。それで幸せに胡座かいて、隙だらけの奴の寝首をかくのも悪くない。

しかし目の前の男は女にゃ困らないというのに、どうも女に弱い。敬愛する近藤はモテるところは違うが、女に弱いところはそんなもので、どうも自分の周りにはそういう奴らばかりだ。自分ならそんな馬鹿は遣らないのに馬鹿馬鹿しい。

自分が副長になる日も遠くないなと笑うと、土方はこちらをちらりと向いて言った。


「お前はガキだから分からねーんだよ」

「なら一生ガキでいーや」


その言葉の意味が良く分からず、俺は心の底から思った台詞を言う。

憎たらしいガキが脳裏にチラついた気がしたが、それが腹立たしくて、ぶつけようが無い苛立ちにバズーカを一発、土方にぶち込んだ。





照れ隠しに一発
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