「ごめんね、お侍さん」
建物の崩壊、逃げ惑う人々の混乱の声、喧騒と云うに相応しい其処。
突き付けられた傘、そして相手の声だけがクリアに聞こえた。
「お侍さん、面白いし。お侍さんの遺伝子には興味あるんだけどさ……残念だ」
流れた血が瞼まで流れ片面が空けられない。木刀を持つ手が重い。重力とはこれ程重いものだったか。
一瞬でも気を抜いたら倒れて仕舞うだろう。次が最後だと云う事は分かっていた。
ふざけた事を云う相手の表情は変わらぬ読めない笑顔。
「お侍さんの遺伝子此処で絶えちゃうから」
変わった宣戦布告だ。
突き付けられた傘が振り上げられると同時、木刀を構え頭上にてぎりぎりで防いで睨み合う。
「―…ッ。俺の遺伝子絞り上げたかったら、手だれな上玉連れて気やがれコノヤロォォォオ!」
腹に力を入れ叫び声を上げ何とか押し返せば、不意に木刀に掛かる重みが消える。神威が後ろへ飛んだのだ。
強さ。
純粋にそれだけを求めて居る。それ以外には目もくれず、興味津々に向かっては次の力を求めている。先の未来に生まれるかもしれない強さすら興味を抱いて。
まるで赤子の様だ。
親の顔が頭に過ぎる。そうして妹の顔も。いつか共闘したあの日を思い出す。
「親父に言っとけ。ウチは託児所じゃねェとな」
「あはは、言っても無駄じゃないかな。次に会ったら殺しちゃうから」
「前言撤回ィ…どうやらこちらのお子さんには厳しい躾が必要な様だ」
何も知らない子供の様だ。
そこに一二発、引導を叩き込めれば幸い。しかし、骨が折れそうだと云うか、実際こちらが一二本折られている。
木刀を構え踏み込む間際、思った。
一つ、言える事があるならばこれだ。
ガキなんて嫌いだ。