歌って踊る少女が、画面の向こう側から無垢な笑顔を向けて居る。その笑顔が胡散臭く感じ、見ていて余り心地好くはなかった。しかし、テレビのチャンネルを変えるのも態とらしく気が引けたのでそのまま眺めて居る事にした。視線はテレビに向けたまま、後ろに居るであろう相手に声を掛ける。



「万斉先輩、私って可愛いと思いません?」



ヘッドホンで聞こえていないのか、はたまた聞こえぬ振りをしているのか。返答が無く、振り返って相手の名前を呼ぶ。




「万斉せんぱ―…」


「お通殿にでも嫉妬したか」





思わぬ返答に息を飲んだ。


そんな意味合いで云ったつもりはなかった。戯れに云って、笑って終わる程度の軽い話題提供のつもりだったのだ。


慌てて取り繕うとするも、上手い言葉が見つからなく、己の口は支離滅裂な言葉を勝手に吐いていく。


こちらが慌てて居ると云うのに、目の前の相手は鉄壁のサングラスで目を守り、涼し気にポーカーフェイスを気取っている。


「万斉せんぱ―…!」

いい加減にしろ、と諌めるつもりで立ち上がり相手の名を呼ぼうとした。



しかし、弦の鳴る音がそれを遮る。


「主は表に出るよりも、晋助の前に居る方が輝くでござる」




余韻を残した儘紡がれた言葉。その言葉は歌の歌詞の様にすっと胸の中へ落ちる。
テレビを見ていた時、何と無く感じていたモヤモヤした物は消えていた。


「………ムカつく」



次に湧いた感情は苛立ちだった。涼しい顔の男を睨みつける。
心を言い当てられた事。誰よりもあの人の傍に居る事。己が決して行けない所に相手は居るくせに、それでも上から目線でない事。坦々と、客観的に云っている事。



とにかく、全てがムカついた。




「拙者に嫉妬でござるか」



歩み寄りヘッドホンを引っ張る。


「うるさいっスよ」


耳元で云ってやった。突然の事で相手は驚いてこちらを見ている。その顔を見て少し心が晴れた。



心がぐちゃぐちゃと煩い。それに名前をつけられるのは違う気がした。自分でも分かる事が、ただ一つ。



負けず嫌いなだけ。

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