「どうしてそういう事を云うの」
不覚だった。
たまたま気を抜いていた、というかタイミングが悪かったのだと思う。その周期なんて分からないけれど。本当に不覚だったとしか言いようがない。
己が吐いた台詞と共に溢れてしまった涙。
これじゃあまるで自分が惨めみたいで、流れ落ちた涙をどうにかしようとした。けれども、一度溢れたそれはダムが決壊したように止まらない。苦し紛れで両の手で顔を覆う。やはり惨めだ。目の前の相手に泣き顔を見られてしまったのが、自分が弱い女と思われることが、可哀相と思われるかもしれないことが、相手の中の自分はもっともっと気丈な筈なのに、なんで。
沈黙が続く。
飽きれられてるのか、困らせているのか、分からない。
堪えられ無くなり、なけなしのプライドを振り絞って顔を上げて睨みつける。相手の表情は読めない。顔の大半が前髪で隠れて居る為だ。唯一出ている口が開かれる。
「そういう所を見せりゃァ良いんじゃねェの、アイツに」
分からない、分からない。
本当にどうしてそういう事を云うの。
私は再び顔を覆って泣き出した。
あいつがその場を去らずにずっとそこに居た理由も、何も言わない理由も、再び出た涙が初めの物とは少し違った気がする理由も、全て。
どうして。