「僕は、さっきから話しているのだが」
「悪いね、脱線は避けられねーんだわ」
「話した通りだ。僕は妙ちゃんと一緒になりたい。しかし、偽装結婚などと不義な真似をするつもりはない。僕は新八君も幸せにするつもりだよ。」

変わらず淡々と話すその様子に銀時は、頭をがりがりと掻き乱し気だるげに口を開く。

「ばっか、おめー。結婚なんてアレよ?墓場だよ?幸せにってどうするつもりなの。ダークマター生成する義姉付きだぞオイ。料理から何から家事までやるんだよ?家庭に収まるってのはなァ――…」
「銀ちゃん、どおかのお父さんみたいアル」
「うっせ、俺は一般論を言ってんの」
「僕は家庭に収まる気などない」
「ほらね、止めとけ止めとけ結婚なんて」

神楽の茶々が入りながらも、説得を続けていれば結婚に後ろ向きにも聞える九兵衛の言葉で、漸く説き伏せられたかと胸を撫で下ろす。

「新八君が嫁だ。柳生家に向かい入れる」
「……」

しかし、それもまた裏切られる事になった。


「どんだけェェェェェェェェエエエ!!!」

新八が突っ込みながら、意識を取り戻した。
銀時はそんな新八を憐れむかのように双眸を細め、立ち上がる。新八の肩に手を置いて一言つぶやいた。

「お幸せにィ」


つまり、お手上げと云う意味である。見捨てられたとなっては新八は慌てて抗議を、と思うが前に進めない。不思議に後ろを確認すれば、付き人である東条がいつの間にか現われて自分の手を掴んでいた。恐らく、自分では男の手を掴めない九兵衛の為に。

「あの、東条さん…」
「逃がしませんよ」
「逃がさないって…東条さん!アンタ、若ァア!っていっつも騒いでるじゃないですか。良いんですか、止めなくて。いや、寧ろ止めて下さい、ちょ、離せェェェエ!」

親馬鹿ならぬ若馬鹿を発揮する東条が、九兵衛の求婚を助けるという事が有り得るのだろうか。新八は不思議に思ったが、今は考えている暇などない。一瞬でも気を抜けば、嫁というふざけたポジションに配置され兼ねない。色恋沙汰に縁が無い自分ではあるが、流石に婚姻を無理やり決められるのは嫌だ。しかも、これは普通ではない。掴まれた腕から離れようとするが、東条は一向に離してくれない。

「私は考えたのですよ。若が女として生きる道を」

東条が云うにはこうだ。
結婚すれば、性別を変える心配もなくなる。そして童貞のチキンならば若に手を出す事もないだろう。何かの気の迷いを起こしても、全力で邪魔が出来る。それに女性が女性と絡んでいる姿って萌えますよね―――…


「オイ、最後ォォォォオ!!」
「え?どうしました。最後が一番重要でしょう。百合ですよ、百合」
「変態だな!生粋の変態だな!!」

「新八君」


不意に肩を叩かれた。そして聞える九兵衛の声。新八の心臓が高鳴る。今、東条は自分の腕を掴んでいる。神楽と銀時は離れたソファーで静観している。つまり、この手の持ち主は―……。


男嫌いで、触れただけで投げ飛ばす九兵衛がまさか。
それ程までに自分の婚姻を望んでいるのだろうか。実は姉上の件は九兵衛なりの照れ隠しなのではないか。


色々な憶測が新八の頭を駆け巡る。心臓が煩く、顔は熱い。まるで沸騰したようだ。頭の中がぐちゃぐちゃと整理が付かない。


「九兵衛さ――――…あれ」

意を決して、振り返る。

「どうした?新八君」





【マジックハンド】
物を挟んだり掴む為に作られた道具の事。
棒状の装置または玩具で、手元で操作し遠方の物を掴む事が出来る。




「マジックハンドかよォォォオオオ!!!」



目に飛び込んできたのはマジックハンド。一瞬ショートする新八の脳内にマジックハンドの説明が流れる。九兵衛は新八の肩をマジックハンドで掴んでいたのだ。期待した分だけ、恥ずかしいやら面白くないやら、いい加減突っ込みに疲れてきたやらで新八はもうどうしたらいいか分からず、行き場のない衝動をぶつけるように叫ぶしかない。その声も既に半分枯れかけている。

どうやら新八の苦悩はなだ始まったばかりのようだ。
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