「すまない、大丈夫だろうか」
「……いえ、慣れてますけどね」

間もなく新八が意識を取り戻すと、九兵衛達が己を覗いていた。体を起こし、眼鏡を掛け直す。九兵衛は先ほどの勢いは失ったようで、今なら会話も出来るだろうと新八は話を戻してみた。


「ところで、何でいきなり結婚なんて言い出したんですか?」
「そうそう、こんな眼鏡と結婚だなんて。人生棒に振るよ?眼鏡ケースになっちゃうよ?」
「だから言い過ぎだろォォォォ!!」
「そうヨ、九ちゃん考え直すアル。戸籍が∞になっちまうネ」
「なるかァァァァァァァア!!」


静かだった二人が揶揄を入れてくる。ツッコミの収集が付かない。ボケしか居ないこの職場に何度おー●んじ●ーじんじというCMのワンシーンが浮かんだ事だろうか。


そんな三人を眺め九兵衛はくすりと笑みを溢した。その仕草は男性のものではなく、可愛らしい女性にしか見えない。始めは男性にしか見えなかった彼女は昔より随分女性らしさが増したように感じる。新八が思わず九兵衛に見惚れていると、ニヤニヤと勘に触る笑みを二人が向ける。それに気付いて文句でもと、口を開こうとしたが、それより先に九兵衛が話しだした。残念ながら二人に制裁を下すことは叶わず、新八は何処か落ち着かない儘九兵衛の話に耳を傾けた。


「うむ、実はだな。僕は気付いたんだよ」

漸く用意出来た御茶を置くと四人で其れを啜る。ゆったりとした時間の感覚に問題の一件を忘れかけていたが、今まさに其れを九兵衛が語っているのだと思えば、この時間の感覚は幻に等しいものなのだろう。

「妙ちゃんがいくら好きでも、僕の性別は生物学的に女性である事は変わらない」
「まァ汚いバベルの塔の工事でもしない限りはなァ」
「ちょ、銀さん!余計な事を言わないで下さいよ、しーッ!しーッ!」
「いや、身体を弄った処でおたまじゃくしは生成できないからな。僕の家の後継ぎの問題が浮上してしまう」
「なんて事云ってるんですかァァァア!」

新八は慌てて神楽の耳を塞ぐ。しかし、それも虚しく神楽は鼻をほじって他人事である。それが何だと云う様な様子から、子供らしからぬ耳年増が伺える。新八は銀時を怨みがましくじっとりと見詰めた。最近更に似てきた、諸悪の根源である。



「…そこでだ、妙ちゃんと僕が幸せになる未来は一つしかないと気がついたんだよ」


そうこうしている間に、九兵衛は茶を飲み干して湯呑みを卓上にどんっと置いて力強く語った。



「結婚しかないと」

「は?」
新八は頭痛を覚えた。
それは、何というか。云ってしまえばアレだ。


「偽装結婚じゃないかァァァァァァァアア!!!」



本日何度目か分からない、新八の叫び声が万事屋に木霊した。





(結婚しないか)
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -