「キュキュ!」
「あれ、どうかしましたか、ジープ」

鳴き声を聞き八戒は白龍を抱き上げる。優しく頭を撫でながら、不思議そうに様子を伺うが、特に変わった様子もなく変ですね、と首を傾げた。それに気づいた悟空が、隣に駆けより大きな金色の目にジープを映した。食べちゃ駄目ですよ、なんて八戒に言われるとむっと顔を歪める。その動作が年齢より子供っぽく見える所以だろうか。

「食べねーよ!」
「どうだかな、小猿ちゃんは見境ねーから」
「んだとぉ!」

悟空の言葉に悟浄がすかさず茶々を入れる。そうすればもう結果は見えたようなものだ。すぐにいつもの喧嘩に発展し、煩く騒いで三蔵がキレる。今日はハリセンだったようだ。スパパーンという良い音が鳴り響いた。その一連の動作を一人眺める観客のように、八戒はのんきに終わりましたか?等と聞いてくる。まるで寸劇が終わったとでもいうような物言いに、誰しもが何か言いたくなったが、八戒が怖いので何も言わない――いや、言えないのだろうか。

「で、ジープが一体どうしたって?」

悟浄が頭をかきながら、事の発端であるジープの話題を口にした。一件ダルそうにも見えるが、実はこれで結構心配しているのだと他の3人は知っている。後ろで悟空が可笑しそうに笑うと悟浄はバツが悪く舌打ちした。やはり指摘されるのは面白くないものだ。

「いえ、怪我もないみたいですし、体調も悪くはないと思いますが……どうしたんでしょうか」
「腹でも空いてんじゃねぇの?」
「それはお前だけだろ」

悟浄の言葉に悟空は睨み、また喧嘩に発展しそうになるが、三蔵が懐から銃をちらつかせると、二人は押し黙った。

「どうする。この街でもう一泊するか」

 ジープを気遣い、三蔵は八戒に尋ねる。その様子を悟浄は面白そうに、三蔵の肩に凭れニヤつきながら眺めた。

「あーら、三蔵サマったら、随分ジープに対しては紳士的なんじゃない?」
「当たり前だ。こいつはお前の倍は役立つからな」

 不快だと思い切り眉間に皺を寄せて、三蔵は悟浄の手を払う。いつものことと気にせずに悟浄はハイハイと両手を上げてひらつかせた。それを見て三蔵は一層皺を深めるが、何を言っても無駄だと煙草に火を点け肺に煙を入れる。
 八戒はどうしたものかとジープを眺めるが、先ほど少し変わった鳴き方をしただけで、その後はとくに変わった所作もしない。


「念のため、1日様子を見てみましょうか。」
「おう、ジープは大切な仲間だもんな!」

「キュキュ!」

「あれ、また鳴いた」
「八戒これどういう意味?」
「さぁ……僕にも分かりませんが」


ジープを八戒の手から取り上げて、そう言って笑いかけると返答するように鳴き声を上げた。悟空は八戒を振りかえって尋ねる。八戒は口元に手を当て、少し考えてから言った――


「ジープも仲間だって、言ってくれてるんじゃないですかね」



 西への旅路の中、ジープと彼らの旅はまだ続く。
 西へ、西へ。4人と一匹の旅はまだ始まったばかりだ。


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