私に出来ることは何だろうか。
最近ふとこのように思う事が多くなった。私には彼らの辿った軌跡を伝え置く、という使命があった。悲しい事に人の記憶は薄れゆく。そういうものなのだ。もしかしたら、私がしている事には何の意味もないのかもしれない。だが、私に出来る事はこれしかないのも事実だ。言ってしまえば、この使命感は逃げなのかもしれない。あの時、ただ彼らを見送ることしか出来なかった自分に、己が納得いかないというのだろうか。

――否、ああするしかなかったのだ。私も彼らも。これは逃げでも何でもなく、素直にそう思うのだ。全てが、あのように動いた。まるで結末が初めから用意されていたように。それでも彼らは、用意されていた物語に縛られていなかったと、私は思う。言うなれば、彼らはその脚本から逃れたかったのかもしれない。そして、実際に抜けだしたのだ。
私は終わった物語に取り残され、どう生きたらいいか逡巡しているのだろうか。

私は知りたい。あそこまで彼らを動かした不自由を。おそらく、その不自由に私は気付かず、満足していたのだろう。この身体ではもう望めないことを悔しく思う。


「あ、竜王様…桜が」
「…?」


 全ての花を落とした、万年桜が芽吹いていた。
それは新しく始まる物語の予兆だろうか。


「――近くで見たいものだな」
「外までお連れ致しましょうか?」
「――いや、いい。下がってくれ」







願わくば、もっと近くで。
もっと近くで桜を見たい。




散っては咲く、桜の生き様を。

――今度は傍らで。





桜芽吹く頃に





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