明日天気になあれ
「星はA地点を右折、そのまま甘味所に入りました、どーぞ」
『…危ねェ、出くわす処だったな……了解、そのまま見張り続けろ山崎』
無線で会話しながら土方を誘導する。あんパンを頬張りながら。双眼鏡から捕らえているのは可愛らしいピンクの着物に身を包み、花のように笑う女の子。
溜息と共に双眼鏡を外す。
「…ねえ、副長」
『何だ、動きでもあったか』
土方の声だけが緊迫していた。因みに他に配置していた隊員は既に帰っている。羨ましいが、立場上とばっちりを喰らうのは自分なので、後々の事を考えて仕方なく付き合っていた。
「これってストーカーじゃねーんですか」
『俺の命が掛かってんだァァァ!真剣にやれェェェエ!』
無線を床に置き寝転がり、お昼のワイドショーを眺める。三角関係だの、酔った喧嘩だの、副長の頭と言い、世間も暇だなぁと考えながら食べかけのあんパンを置いた。変わりに受話器を手に取る。
「はいはい…あ、カツ丼定食お願いします」
『オイ、あんパンはどうした。いつも張り込みの時はテコでもあんパンと牛乳しか食わねェあんパンマ〇キャラだっただろうが』
「ガツガツ」
『オイ、無視かコラ』
「カツカツ」
『コラ、絶対聞こえてんだろ。最近調子に乗りやがって…』
夢中でカツ丼を頬張りながら、ちらりと窓を見ると女の子が動いた。
「あ、お嬢さんそっち行きましたよ」
『早く言えェェェエ!』
『マヨラ様ァァァァァァ!!』
無線越しに聞こえて来た騒動に、下らないとスイッチをオフにした。
デバガメする気はさらさら無いが、空になった丼を外に出すついでに様子をちらりと伺った。
「生き生きした顔してるじゃないすか、副長」
江戸の女は元気だなァ。
副長がとっつぁんに殺されませんよーに。
明日の天気ついでに願ってやろうか。