年の瀬



うーさぎ
うさぎ

なーにみて、はーねーる


「あり、続き忘れちまった」


来年は卯年だと聞いて、咄嗟に出て来たフレーズを口ずさむ。しかし続きが全く出て来ない。壊れたカセットテープ――今はそんなアナログなものではないが、とにかくそんな感じにこれも違うあれも違うと、繰り返し同じフレーズを歌う。



「うーさぎうさ」
「うるせェェェェエ!」

「何でィ、土方さんが安眠出来るように子守唄がてら歌って差し上げてんじゃねーですか」


拡張機で。


「てっめ、総悟コラ…」

聡い男だ。自分が部屋に忍び込んだことなどとうに気付いているだろうに、無視を決め込みタヌキ寝入りをしていたのだ。
そのまま寝込みを襲ったところで避けられるのは目に見えていたので、ちょっと粋な計らいをと悪戯の思考を変えてみた。

徐々に眉間の皺が深くなっていくのを冷静に観察しながら、耳元で冒頭のように歌い続けると、限界に達したらしく相手は漸く布団から飛び起きた。

常にかっ開いた瞳孔は今日も調子が良いようで、怖い面がさらにおっかないものになっている。勿論そんなものを恐れるタマではなく、土方に胸倉を捕まれながら惚けてみせる。そんな自分に怒る気が失せたのか、溜息と共に解放された。

「チッ…眠気も飛んじまった。責任持って付き合え、総悟」

くいっととっくりを傾ける仕種をして、顎で外を差す。


「未成年ですぜ、俺」
「良く言うな。今更だ」


分かり切った事を言ってみると鼻で笑い飛ばされた。
そんな生真面目な性格で無いことは百も承知である。




酒を持って縁側に腰を下ろす。
星が出ていた。
肌寒さを感じながら酒を飲み、身体を温める。冬は空が綺麗なんだという当たり前の事を、初めて知ったような新鮮な感覚を受け、似合わないと苦笑した。




十五夜お月さん
見て跳ねる




低く、しかしはっきりとした通る声。
突如、耳に届いた唄は隣の男からのものだった。


「ああ、そんな歌でしたっけ」
「兎の唄でも何でも無ェよ。十五夜の唄だ」

覚えのある煙の匂いが鼻孔を擽る。正直臭い。
風流人を気取ってるのか知らないが、これでは台なしにしてるのではないだろうかと思う。別に自分はそんなものには縁もなくどうでも良いが、この男がする事は何でも気に食わないのがデフォルトなのだ。


「何で月なんざ見て跳ねるんでしょうね」

丸でも何でも無い欠けた月を見上げる。丸を満月というように、この月にも名前があるのだろうが学もなく、興味もなければ知らない。月は月、それで十分なのだ。


「さァな、うさぎの勝手だろ」
「なんかそんな歌ありやせんでしたっけ」

「馬鹿、そりゃァ歌じゃねェ。ガキの替え歌だろうが」



うさぎ
うさぎ

何見て跳ねる

うさぎの勝手でしょう




「何だよそりゃァ」
「何でしょうね」





余った酒を煽る。
今日は珍しくゆっくり寝れそうだ。





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