それは確かに恋だったVer.神楽


日本という地に降りて、思い出したのはクラスメイトとの楽しい学校生活の記憶だった。久しぶりに日本に来る事を伝えると、姐御と呼び仲良くしていた友人が気を利かせて同窓会を開いてくれた。正直、卒業してからかなり経っていた為、集まりは期待していなかった。しかし、それは杞憂で終わり予想以上の出席率の良さに素晴らしいクラスだったのだと、改めて思った。

長年の溝を埋めるように、色んな人と言葉を交わし思い出話に花を咲かせる。その中で話題になるのは、当時良く自分と衝突していたクラスメイトのこと。本人も来ていると、半ば強引にそちらに押しやられ、困ったものだが、久し振りに言葉を交わしたいのも事実であり声を掛ける事にした。


「久しぶり」


変わらぬ栗色の頭は昔の記憶そのままで、後ろ姿ながらあいつだと分かった。振り返った時の顔は大人びていたが、涼しげな顔はきちんと面影が残っている。しかし、どうにも違和感を感じてむず痒い気持ちになった。多少驚いたような表情になった後、彼の口は自分を見ても悪態の一つも吐かずに、微笑したのだ。あまつさえ、椅子を引いて着席を促す等と紳士的な振る舞いもしてみせた。昔の自分なら何か企んでいるのかと、目の前の男を心底気味悪がったのだろうが、今の自分は彼も大人になったのだとしみじみ思える程には歳を重ねた。


「そんな事出来るようになったのね」
「あ?あー、そりゃ女性が来たら椅子位進めるだろ」

どちらとも無く黙り込むが、沈黙も別に嫌なものではない。それを楽しみように二人グラスを傾ける。そんな雰囲気に浸れるような男女になったのだ、なんて思うと何だか可笑しくて、ちょっと笑った。


「お前こそ」
「なあに?」
「びんぞこ眼鏡に、喋り方」
「あら、何年経ったと思うの?」

本当に何年経ったのだろうか、とあの頃を思い出す。目の前の男が、いけ好かないサド野郎だった日を。何故か自分はどうしてもドS野郎が気に喰わず、事あるごとに反発し合った。弁当の中身を取り合ったり、変わりもしない酷いテストの点数で張り合ったり、運動会ともなれば負けるものかと競り合い、男女なんか関係無く取っ組み合いの喧嘩までした。とにかく争った。それが当たり前で、卒業したらこいつの顔も見なくなるしせいせいする、だなんて思いながら物足りなさを感じていた。

その本人も来ていると聞いて、互いに大人になったから大喧嘩なんてならずに、せいぜい口喧嘩位だろう等と思い声を掛けた。相手が自分を見た時の嫌な表情を思い浮かべながら。けれども、振り向いた男の表情は普通で、自分への対応は紳士的な男性のようであった。

彼はとても魅力的な男の人になっていた。

「神楽さん」
「……何かしら?」
「アンタ、綺麗になったな」
「貴方は良い男になったわね」「……そうかィ」


ただ、何度見ても何を言っても今の彼にはさっぱり苛立たたず、どうしたってただの男性にしか見えないのが無償に悲しく感じた。


皮肉であるが、そうして自分は昔の恋に初めて気付いたのだ。









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