それは確かに恋だったVer.沖田


「久しぶり」

今日何度目か分からないその台詞に、呑んでいたグラスを置き後ろを振り返る。一瞬、声の主の変わりように、本当にあいつ本人なのだろうかと疑った。しかし、その女の目に優しくないピンク色の髪の毛は記憶のままの色で、不健康そうな陶器のような白い肌もそのままだった。ただし、腰に届くような長さの髪の毛も、すらりと伸びた白い手足を惜しみもなく晒すような女らしい服装も、記憶とは全く一致しなかった。

今日は同窓会だった。ばらばらに散った面々も、正月位はいくらか集まるだろうと元委員長達が企画した。

あれだけ身近だったクラスメイトとは、卒業して最初こそは同窓会やら何やらで繋がっていたものの、時が経てば次第に数は少なくなり、とうとう今誰が何をしているかすら知らなくなっているといった現状だった。それが悲しいと思う暇もなく、自分の人生はそれなりに充実していた。たまに思い出すことがあっても、自分から連絡する行動力も無く、言って仕舞えばそこまでする程の事でも無く、そのまま個々の人生を歩んで行くんだろうなと思っていた。


そんな時である。久しぶりに同窓会の知らせがあったのは。


近年は昔と違い、普通高校の同窓会というと、中々人は集まらずに結局内輪で飲んで終わる事が多かった。それなのに自分が所属していた3Zの連中は素晴らしい出席率だった。他のクラスの奴に話を聞いてみても、こんなに集まるのは珍しく、羨ましいとも言われた。そんな事を聞いて、自分はクラスメイトに恵まれていたのかもな、なんて思ってみたりして、そんな事考えてしまう程位には自分も歳を重ねたのだと思う。

目の前の女も、きっと自分と同じようなものだろう。


「久しぶり」

隣の椅子を引いて着席を促してやる。彼女は少し面食らったような顔をしたものの、直ぐに口許に笑みを浮かべて席についた。

「そんな事出来るようになったのね」
「あ?あー、そりゃ女性が来たら椅子位進めるだろ」

会話が途切れどちらとも無く手元の酒を煽る。

「お前こそ」
「なあに?」
「びんぞこ眼鏡に、喋り方」
「あら、何年経ったと思うの?」

本当に何年経ったのだろうな、とあの頃を思い出す。目の前の女が、いけ好かないチャイナ娘だった日を。何故か自分はどうしてもチャイナ娘が気に喰わず、事あるごとに反発し合った。弁当の中身取り合ったり、変わりもしない酷いテストの点数で張り合ったり、運動会ともなれば負けるものかと競合い、男女なんか関係無く取っ組み合いの喧嘩までした。とにかく争った。それが当たり前で、卒業したらこいつの顔も見なくなるしせいせいする、だなんて思いながら物足りなさを感じていた。

同窓会と聞いて、出会ったらまた喧嘩になるだろうなんて思っていたのに、どういうことかチャイナは一度も同窓会に顔を出さなかった。誰に聞いたわけではないが、母国に帰ったのだと誰かが教えてくれた。


目の前の彼女を見る。
どう見ても良い女に入る部類だった。


「神楽さん」
「……何かしら?」
「アンタ、綺麗になったな」
「貴方は良い男になったわね」
「……そうかィ」


ただ、何度見ても何を言っても今の彼女にはさっぱり苛立たたず、どうしたってただの女にしか見えないのが無償に悲しく感じた。


皮肉であるが、そうして自分は昔の恋に初めて気付いたのだ。




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