眠れ眠れ
息が、白い。
かじかむ手を温めようと吹き掛けた息が白く、それ程の寒さを物語っている。
雪は無い。
たまに降る雪は積もる事は無く、汚い茶色に染まって、消えていく。テレビで見るような一面の銀世界は夢のまた夢で、東京という名のこの街は今日も忙しく時が進む。
寒い。
「雪合戦とか、雪合戦とか、それか雪合戦とかがしたいアル」
「全部雪合戦じゃねーか」
独り言に返って来た言葉に目を瞬かせる。
沖田だった。
何かと自分と反発しあう、馬の合わない男であった。水に油、そんな感じの。
「それ以外に何があるのヨ」
「いっぱいあんだろーが。雪だるまとか、かまくらとかスキーとかスノボーとか」
「そんなに雪降るわけねーダロ」
「まァな。つーか、寒いのはゴメンだ。あー寒ィ」
そう言う沖田はマフラーに手袋、耳まで深く被った帽子と、完全装備である。
手袋も無い自分への皮肉である事は簡単に分かった。
「大雪降って寒さで死ね沖田」
「つららに当たって死ねチャイナ」
「かまくら倒壊して埋もれて死ね」
「雪合戦で混じった石入りの雪玉が当たって死ね」
ビュン、と冷たい風が吹いた。
言葉の応酬は止まり、二人身震いする。
「…止めるアル、更に寒くなってきたネ」
「今だけは同感してやらァ」
身を縮め少しでも寒さを紛らわそうと、その場でじたばたと足踏みをする。動いてないと気が済まないのだ。
「早くあったかくなんねーカナ」
「雪だの何だの言ってたくせに良く言うや。」
視界に黒い影。
驚いて手で受け止めると、それはマフラーだった。沖田を見ると、首にあった筈のそれが無い。彼が投げたのだと直ぐに分かった。
「おい、キモイアル。どーいう風の吹きまわし…」
「俺ァまだ寒いままでいーや」
「は?」
その行動が理解出来ずに不可解に眉を寄せる。
返そうとマフラーを突き出すと、受け取る変わりにそんな言葉が返って来た。
「春になったら卒業だし」
息が、白い。
沖田はそう言うとマフラーを置いたまま駆けて行った。
行き場の無くなった手元のマフラーを見つめる。
首に巻いて後を追った。