パラレルワールド


「パラレルワールドって知ってっか」


それは本当に唐突だった。

退屈な授業もあと5分で終了。お昼は何を食べようか、なんて考えていたら、早弁して空になった弁当を思い出しては少し切なくなったり、と取り留めの無いことを授業そっちのけで考えたりしといた。そんな時だ、冒頭の台詞が隣から投げ掛けられたのは。

当然思考は追い付かず、眼を瞬かせる。すると相手は自分の様子でその単語に馴染みの無い事を察したのだろう。あのよ、と切り出した。

「昨日テレビでやってたんだけどな。例えば昼飯をカレーパンか焼きそばパンで迷ったとする」
「どっちも食えば良いアル。問題無いヨ」


例え話に出て来たパンの名前に空腹が擽られて、時計を見る。

可笑しい、全く進んでいない。
仕方ないと再び相手に視線を戻すと、呆れたような表情が眼に映る。話の腰を折るな、と言いだげだが知った事では無い。自分にとっての問題は、現在の腹の減り具合である。そんな事は相手も承知なようで、話を進めた。

「まあそれも有りっちゃァ、有りか。」
「…?」
「焼きそばパンを選んだお前。カレーパンを選んだお前。パンを二つ買ったお前。つまりどれを選ぶかによって違う訳で、その違う選択肢分だけ世界があるっつー仮定の話らしいぜ」

「へえーへえーへえー」

適当に相槌を打ちながら、そこにボタンがあるかのように机の上を連打した。

時計を見る、あと3分だ。


そんな態度が面白くないのだろう。相手が深くため息を吐いた。しかし、生憎隣の相手が落ち込もうが泣こうが喚こうが、関係無い。寧ろ何かと突っ掛かってくる相手が、静かになったら好都合だ。弁当のたこさんウインナーを奪われることも無いし、喧嘩になる事も無くなって先生に怒られる事も減るだろう。
時計を見た。

あと1分、財布を握り締める。教師がこちらを見た。
生徒達の視線が時計と扉をいったり来たりする様が、教卓から良く見えるのだろう。チョークを追いて『今日は終わりだ』と告げた。それを合図に一斉に立ち上がる。込み合う前に昼飯の確保、誰もが考えることだ。勿論自分もその一員であり、腹の減りから皆以上の熱気がある。

駆け出す勢いで一歩を踏み出す。しかしそれ以上前に進む事は叶わずに、前につんのめる形となった。どうにかバランスを保って、転ぶ事は避けた。
顔を上げると、同じ目的であった大半の生徒は既に教室居なく、出遅れた事を悟る。後ろを勢いよく振り返り、両手で頬を左右に引く。


「どのお前も絶対みーんな同じ位ムカつくに決まってるアル」
「ぶッ」



そこは笑うとこだろうか。

突然噴き出して机に伏せて笑いを堪える相手を一瞥し、購買へと急ぐ。




「お弁当、買ってこよ」




なんだか釈だと、パンを買うのは止めた。




良く分からないけど、やっぱりあいつはムカつく奴なんだ。

無造作に弁当を掴んで教室へと駆ける。


どんな顔をするだろうか。
自然と口角が上がった。
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