世間一般の常識が通用するとは限らない

「烈火、」

「……んだよ。」

「お前の言い分は、解らなくは無いんだが…。」


赤くなった烈火の手を急いで作った氷嚢で冷やしながら、ようやく脱力する。
何だかんだと文句を垂れる烈火の言葉を聞き流しつつ、安全への配慮が必ずしもプラスに働く訳では無いのだな、と痛感した。



度重なる烈火との喧嘩(という名の破壊行為)で、何度も部屋をリフォーム(勿論実費で)していたが、先日、ついにマンションの管理人から出ていってくれと泣き付かれた為、現在のマンションへと引っ越すことになった。
以前住んでいた部屋より一部屋多く(烈火と薫が同時に泊まりに来れるようにだ)、リビングも広く、会社にも近い。しかし、何より烈火の興味を惹いたのは、このマンションが『オール電化』であるということだった。
来る度に私がコーヒーを入れるのをカウンターの向こう側からじっと凝視し、やれ湯が沸くのが早いだの、ガス臭く無くて良いだの、掃除が楽そうで羨ましいだの、やたらと所帯染みた話を飽きもせずにしていた。

そして今日、土日を利用して泊まりに来た烈火は、休日にも関わらず出勤していた私を労るという名目で夕飯を作ると言い、憧れの電気コンロの前に立った。……のだが、


「何故、火もないのに火傷をする?」

「だって、鍋肌は熱いじゃん。」

「何故、鍋に触った?」

「だって、予想以上に早く沸くから焦っちまって…。」


氷嚢を一旦外して、火傷の具合を確認しながら、心の中で溜め息を吐く。
何にでも興味を持つのは良いことかもしれないが、危険も気にせず首を突っ込んで行って痛い目を見るという行動パターンは、きっと一生直らないのだろう。


「やっぱガス火が一番だなー。オール電化、危険だわ。」

「世間では火傷や火事の危険を少なくする為にオール電化にするらしいがな。」

「っつったってよー、俺、火だったら紅ぐらい温度高くねぇと火傷しねぇし。ガスのが安全じゃん。」

「……そうだろうな。」


微妙に論点がずれている烈火の話に相槌を打ちながら、来るべき未来に、烈火との新居を構える際には、ガス火のシステムキッチンは絶対に外せないな、と心に深く留め置いた。


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