天使と悪魔

※善悪逆転した世界(ブラックマトリックス)っぽいパロ
黒い羽根:支配階級
白い羽根:奴隷身分



「くっ……てめぇ…こんな事してタダで済むと思ってんのか…っ?」


手枷を填められた両腕を鎖で吊るされ、藻掻く度にガシャガシャと硬質な音が室内に響く。足の爪先がやっと着く位の吊り方がまた嫌な感じだ。


「タダで済まんのは貴様の方では無いのか?なぁ、『御主人様』?」

「……っ!」


奴の……紅麗の冷たい指先が顎を撫で、走った寒気に思わず背を震わせる。


「クク……どんな気持ちだ?黒い羽根の貴様が、奴隷の白い羽根に良いように弄ばれるというのは…。」

「てめぇ……後で…覚えてやがれ…っ!」


白い指先が、剥き出しの素肌を伝っていく感触を意識しないよう努めつつ、目の前の端正な顔を思い切り睨み付ける。


「貴様こそ、今の威勢を最後まで覚えて居られれば良いがな。」

「……拾ってやった恩も忘れやがって…!」


紅麗の背に美しく閃く白い翼を視界の端に収めながら、そう心にも無く吐き捨てた。

白い羽根は奴隷の証。
普通、奴隷を飼うなら、出来るだけ幼い奴が好まれる。そういう性癖の奴もいるんだろうけど、調教しやすいからというのが一般的な理由だ。
ある程度育った奴…特に紅麗みたいに成人までしちゃった奴なんかは屋敷に置きたがる奴もいなくて、スラムでゴミ同然に生きて死んでいく。

だけど、俺は紅麗の美しさに魅せられた。
拾って、屋敷に連れて帰って、風呂入れて、ちゃんとした服着せて。
最初は、かなり性格もひねくれちまってて、全然仲良くなれなかった。だけど、少しずつ心を開いてくれて……本当は、すごく優しくて、良い奴だった。
……だから、好きになって、しまった。

紅麗は奴隷で、俺が主人だったけど、そんな関係は嫌だった。紅麗が好きだから、嫌だった。
だから、お互いに名前で呼び合った。敬語も無しで、奴隷と主人じゃなくて家族みたいになりたいって言った。紅麗も幸せそうにしてくれてた。
なのに、


「恩、だと?……黒い羽根の癖に可笑しな事を言う…。私は、この世界の真理に忠実に従っているだけだが?恩だの優しさだの…ましてや愛などと…邪悪に惑わされた主人を持って、寧ろ不幸と言う物だ。なぁ、烈火?」

「……っ呼び捨て、すんじゃねぇっ…!」


いつも呼んでくれていたのと全然違う冷たい声で名前を呼ばれ、目頭が熱くなる。
何で、こうなった?
心を開いてくれたと思ってたのは、俺だけだったのか?
本当は、初めから変わらず、ずっと俺の事を憎んでたのか?


「どうした、泣いているのか?」

「泣いてねぇ!」

「そんな鼻声では説得力は皆無だな。泣く程の屈辱なのか?それとも……愛した人間に裏切られて、悲しいのか?」

「っんな訳…ねぇだろ……ど、れい、相手に…っ!」


嫌だ。
苦しい。
紅麗を奴隷呼ばわりしたくないのに。
紅麗は俺の奴隷なんかじゃないのに。


「そう……そうだろうとも。貴様ら黒い羽根は、私達を人間だと思ってはいないのだからな。これ以上……貴様の『お遊び』に付き合うつもりは無い。」


突然、顎を思い切り掴まれ、知らない内に俯いていた顔を上げさせられる。紅麗の真っ黒で綺麗な瞳と視線が合う。
……何で、お前がそんな…苦しそうな顔、してんだよ…。


「奴隷らしく、御奉仕して差し上げますよ、『御主人様』。……朝までたっぷりと、な。」


嘲りの形に歪められた口唇から溢れた言葉に、涙が伝うのを止められ無かった。







(私達が愛し合うには、この方法しか無いから)


<< >>
back top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -