悪戯の末路

「あれ?紅麗、寝たのか?」


飯食った後の食器を片付けてると、紅麗の気配が消えていた。気になって寝室へ様子を見に行くと……カッターシャツのままベッドで寝入っていた。着替えに行ったはずなのに、その間もなく寝るとか……よっぽど疲れてんだな…。

ベッドに近付いて紅麗の寝顔を覗き込む。
……何つぅか、やっぱ綺麗な顔してるよな…。
肌とか女よか白いよなぁ。睫毛めちゃくちゃ長ぇ…。つか唇薄っ!あんま柔らかそうに見えねぇのになぁ。………って何を思い出してんだ俺は!
ふるふると頭を振って、唇の感触と一緒に思い出したあれやこれやを振り払う。

これ以上紅麗の寝顔を見るのは危険そうだと感じ、布団だけ掛けて退散しようかと思った、その時、俺の悪戯心がむくりと頭をもたげた。

(こういう時のお約束、だしな。)

紅麗の書斎に走ってマジックを探し、それを持って寝室へ戻る。流石に油性は可哀想なので、水性にしておいた。肌が白いから、黒のインクはさぞかし映えるだろう。


「悪く思うなよーっと。」


キャップを外して再び紅麗に近付く。息を殺して、ゆっくり顔に手を伸ばして行き、ペン先が皮膚に到達するまであと少し、という時。
手首を掴まれた。
……勿論、紅麗に。


「……何をしている?」

「く、紅麗……。」

「随分と楽しそうだったな。そんなに面白い遊びなのか?」

「そ、そりゃあ、もう、長い間愛され続けてる伝統ある遊びだからなー…。」


寝起きとは思えないしっかりした口調に、どうやら狸寝入りだったらしいことを知った。……今更分かっても、もう遅いんだけど。


「成る程…。それ程良い物なら、烈火一人で楽しむより、私と二人仲良く遊んだ方がより楽しいと思わんか?」

「……っぅわ!?」


紅麗がそう言った直後……視界が反転した。
背中の下はふかふかのベッド。
腹の上には紅麗。
いつの間にか、マジックは俺の手を離れて紅麗へと渡っている。


「折角お前から誘ってくれたのだからな。夜明けまで目一杯遊んでやろう。」

「いやぁ……疲れてるだろうし、そんなに無理して貰わなくても良いぜ?」

「遠慮するな。弟は素直に甘える物だ。」

「じゃあ、もう素直に言ってやるよ!悪かった!謝るから勘弁しろ!!」

「聞こえんな。」

「てっめぇぇ!ふざけんな!や、止めろぉぉぉ……っ!」



* * *



翌朝。
痛む腰を引き摺って、洗面所に立っていた。鏡を見ると、黒く塗られた乳首と乳輪。


「あのド変態兄貴が…!」


昨晩、ペン先で乳首を弄り倒してくれた紅麗にぶちぶち文句を垂らしながら、インクを落とす為に水道の蛇口を捻った。お湯が出るまでの間、昨夜の出来事を回想する。

(あり得ねぇ…。何でペン一本であんだけ色々思い付くんだ…。)

昨日のマジックは捨てた。
自分の体の中に入ったマジックなんて、この先心安らかに使えるはずもないからだ。……例え俺が使わなくても、紅麗が嬉々として使ってても嫌だし。


「最悪…。」

「水性で良かったな。」

「るっせぇ変態!」


ようやく出始めたお湯でインクを洗い流していると、いつの間にか洗面所の入口に立っていた紅麗に揶揄われた。もう本当、最悪だ。半分は自業自得なのが、また最悪。


「マジック一本で中々楽しめるものだな。もう一度するか?……次はもっと太いマジックで、な?」

「二度としねぇよ!!」



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