7. 変な意味ではありません

「紅麗って、烈火兄ちゃんの事好きなの?」

「……何を言っている?」


最近ではほとんど烈火と連れ立って遊びに来ていた薫が、珍しく一人で会いに来たと思ったら、淹れてやった紅茶を飲み一息吐くなり、そんな事を聞いてきた。


「だって、最近、よく家に会いに来るし。」

「お前の顔を見に行っているに決まっているだろう。」

「烈火兄ちゃんのアルバム全部持って帰ったりしてるけどね。」

「それは…。」


中々痛い所を突いて来る。
実際は烈火の尻が見たいだけで烈火の幼い頃の思い出など欠片も興味は無いのだが……私が尻を愛好しているなど、薫にこそ最も知られたく無い事実だ。不用意に弁解は出来ない。此処は不本意だが薫の言う通り、烈火を好意的に見れるようになったと言う事で通すのが無難か。

(……いや、)

実の所…最近は烈火に対して嫌悪感を抱く事は極少なくなった。それ所か、烈火のあの素直さ(馬鹿なだけだろうが)や明るさ(喧しいと言った方が正しいか?)、人懐っこさ(不躾なだけかもしれん)が、好意には程遠いとしても嫌いでは無いのだ。


「まぁ…嫌いでは無いな。」


相手が薫であると言う事もあって、別に構わんだろうと正直に告げてみたが…益々怪訝な表情をされてしまった。


「何だ、その顔は。」

「本当にそれだけ?」

「……何が言いたい。」


薫の疑うような言い方に、思わず眉が寄る。烈火に対して他にどんな思惑があると言うのか。……いや、あるにはあるが、それは薫にも誰にも知られていない。…筈だ。


「紅麗さぁ、烈火兄ちゃんの事、変な目で見てない?」


一瞬、呼吸を忘れた。

まさか、バレているのだろうか。
私が、烈火の尻に魅入られてしまっていると。
内心で激しく動揺しながら、表面では平静を取り繕い、「それは、どういう意味だ。」と聞き返す。
しかし、これ以上聞きたく無いのが正直な所だ。もし薫にバレていたら…薫に軽蔑されたら容易には立ち直れまい。


「だからさ、その、つまり…弟とか家族以上の気持ちがあるんじゃないのかなって。」

「……は?」

「要するに、ほら、あれだよ、ラブっぽい感じの……違う?」


顔を赤くしてそう言う薫は非常に愛らしかったが、口から出た言葉は私が予想した物よりも遥かに破壊力を伴っていた。


「っおぞましい事を言うな!」


私の秘めた嗜好は暴かれずに済んだものの、それを遥かに凌ぐ不本意な内容。誤解であるからこそ尚の事腹立たしく、私の怒りは一瞬にして沸点を超えた。


「だって、どう考えたって、そうじゃん!」

「何処がだ!」

「最近、烈火兄ちゃんの事ばっか見てる癖に!それも熱ーーい視線で!!」

「ぐ…っ!」


またも痛い所を突かれ、反撃を封じられた。
はっきり言って半ば無意識に烈火の尻を見ている為、薫が言う程凝視してしまっているのかは定かでは無い。だが、岡目八目と言う位だ。第三者である薫の方がより事実に近い認識を持っているに違いない。つまり、完全に私に分が悪い。


「待て、薫、誤解だ。私は烈火を好いてなどいない。」

「ウッソだぁ!」

「本当だ!確かに血の繋がりがあるのは事実だから認めるが、まず奴を弟とすら認めてはいない。」


怒りに昂っていた気持ちを鎮め、呼吸を整えてから一つ一つ言葉を紡ぐ。このまま言い合っていても埒が明かない。嗜好云々は置いておいて、まずは薫のおぞましい誤解を解くのが先決だろう。


「それって…弟って認めちゃうと近親相姦になっちゃうから…」

「違う!」


しかし、薫は全く信じない所か、私の弁明の何をどう受け取ったのか、恐ろしい解釈をする始末。それも哀れむような視線を付けて。
……不味い。
このままでは、異母弟に許されぬ想いを抱く兄と言う事実無根の勘違いで、結果的に薫に軽蔑されてしまう。


「良いか、薫。私は、烈火自身に好意など欠片も…いや、以前のように嫌悪を感じる程では無いから欠片位はあるのかもしれんが、奴の人格を好ましくなど思ってすらいない。烈火をつい目で追ってしまうのは、だな…つまり…その…容姿、そう容姿だ。烈火の容姿が気に入っているだけだ。」


最愛の義弟にあらぬ誤解を受けるなどどうあっても避けたい一心で、形振り構わず必死で弁明した。この際、事実と少し位擦れた認識をされようと構わない。それに、尻は一応『容姿』の内に入っていると言って良い筈だから、嘘を言った事にはならんだろう。


「烈火兄ちゃんの顔が好きってこと?」


ずっと不信感も顕な顔をしていた薫が、漸く何処か納得したような表情を浮かべた。それを見て、一瞬にして肩の力が抜ける。久々に心の底から安堵した。


「そうだな…いや、顔と言うより…」


落ち着きを取り戻しつつある心音を聞きながら、薫の言葉について思案する。

容姿が気に入っていると言うと、顔の造りが好ましいと言う意味に取られるのは仕方が無いだろう。それに実を言えば、烈火の顔の造形は、父上と、何故か薫に似ている事もあって、多少好ましくはある。
だが、やはり私が最も魅力を感じるのは、


「……体(の一部)、だな。」


比類無き美を備えた、あの尻なのだ。

それだけはどうしても譲れない。
嗜好を暴露するつもりは無いので部位を伏せたまま、そう主張すると。


「……ふーん…そっか…」


薫が何故か顔をひきつらせたまま、小さく何事かを呟いた。








(何か不味い事を言っただろうか…。)

(体が好みなんて…尚悪いよ…。)



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