5. ただ純粋に心配なだけなんです

「修学旅行だと…?!」

「そうだけど……何だよ。」


先日借りたアルバムを返しに寄った烈火の家で、大変な話を聞かされた。
三泊四日の修学旅行。
北海道でスキーと言うだけで、寒さや転倒など(尻の)安否が心配だと言うのに。


「ホテルに宿泊するのか?」

「当たり前じゃねぇか。」

「それは、一室ずつに風呂は付いているのか?」

「んな訳ねぇだろ。大浴場でクラス毎に入るに決まってんじゃん。」

「そんなもの了承出来る訳がないだろう!」

「何でだよ!」


よりにもよって、最も血気盛んな年頃である男子高校生達の中に、(あの美しい尻の持ち主である)烈火を放り込まねばならんなど……!
考えるだに恐ろしい。
もし、興味本意に触れられでもしたら……いや、最早視線ですら凶器だ。他人の視線に曝されることすら赦し難い。大勢に舐め回す様に見られでもしたら……それだけで穢れてしまうに違いない。


「考えてもみろ。大浴場に入るということは、不特定多数がお前の尻を見るのだぞ。」

「それが、どうしたんだよ。」


だと言うのに、烈火は全く意にも介していない。どころか、この様子だと、端から隠すつもりすら無さそうではないか。
こんな無防備な烈火を(尻ごと)、血気に逸る高校生の群れに放り込むなど……


「……っ堪えられん…!」

「だから何でだ!!」


思わず頭を抱えた私に、烈火が喧しく抗議する。しかし、私も引き下がる訳にはいかない。学校行事で決まっているからだとか、集団行動なのだから仕方無いだとか、そんな物は関係無い。いざとなったら、金で学校と宿泊先のホテルを買収する事を覚悟に決め、その後一時間以上に渡って烈火の説得を続けた。


「薫くん……紅麗は過保護なだけよね…?」

「多分……俺もそう思いたいよ…。」

「なぁ、あいつ、もしかして、そっちの趣味が…。」

「ありません!」

「無いよ!」

「そ、そうか……済まん…。」



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