1. 運命の出会いという奴です

「やべーっ、着替え持って入んの忘れてた!」

「うわぁ、烈火兄ちゃん、ハレンチ!」

「うるせぇ!」


目の前をバタバタと腰にタオル一枚巻いただけの烈火が通り過ぎる。

(全く、見苦しい。)

今日は薫と烈火が泊まりに来ている。
便宜上、戸籍の上でも兄弟となった私と烈火だが、だからと言って馴れ合うつもりは無かった。勿論、敢えていがみ合うつもりも無いが。それは恐らく烈火も同様に考えているようで、しかし、薫は何故か私達二人の仲を近付けたいらしく、こうして烈火を引き連れて遊びに来ることもしばしばだ。余計な世話と言えば余計な世話なのだが、薫のすることなだけに、咎め立てする気にもならない。要は薫が可愛くて仕方無いのだ。

(それにしても目障りだな…。)

眼前で、未だタオル一枚で薫とはしゃぎ回っている烈火に苛立ちが募る。何故、よりにもよってあれと血が繋がっているのだろうか。
感じる頭痛を堪えて、愚弟をたしなめようと口を開きかけた、その時。


「うわっ!しまった!」


烈火の腰に巻かれていたタオルが床に落ちた。


「あははは!烈火兄ちゃん、お尻綺麗〜!」


薫の言う通りだった。

(う、美しい……!)

そこにあるのは、この世の芸術の粋を結集したかのような、全く美しい尻だった。

優美な曲線を描く双丘。
染み一つ無い、淡雪のような透明感のある白さ。
しっとりと柔らかそうで、それでいて張りのある肌。
淑やかで清楚な、いっそ神聖さすら感じさせる割れ目。
大き過ぎず小さ過ぎず、貧相では無いが淫靡さも感じさせない、絶妙なサイズと肉感。

正に究極の美の体現。


「うっせぇ見んな!有料だぞ!」

「え〜?」


再びタオルで隠され、視界から消えてしまってからも興奮は中々収まらなかった。

何という事だ。
私の理想そのものが、これ程近くに存在していたとは。
それも、血の繋がった実の弟に。
こんな奇跡が……いや、違う。これは最早、運命だ。
私と烈火が同じ時代に流れ着き、再び相見えた時から、私とあの尻も巡り会う運命だったのだ。


「烈火、早く風呂に入れ。」

「ん?お、おぉ、悪ぃ。」


鼓動が鎮まるのを待って、烈火にそう声を掛けた。
あまり風呂に入るのが遅くなると、寝る時間まで遅くなる。睡眠不足は肌に悪い。つまり、あの尻の美しさを損なう可能性がある。
……考えただけでも恐ろしい。それだけは絶対に阻止しなければ。

風呂場へ向かう烈火の後ろ姿を見送りながら、ふと心配が頭をもたげる。


「烈火」

「何?」

「逆上せるなよ。」

「逆上せるかよ。子供じゃねぇんだし。」

「風呂で転ぶなよ。」

「転ぶかよ!馬鹿にしてんのか!」

「とにかく気を付けろ。(尻に)怪我をせんようにな。」

「……あ、あー、はいはい。何なんだよ、急に…。」


何故か顔を赤くした烈火が、鬱陶しそうに返事をし、今度こそリビングを出て行った。




(どうしたんだ、紅麗の奴?急に俺の心配とか……変な物でも食ったのか?)

(やはり心配だ…。いっそのこと共に入るか?いや、しかし…。)



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