#01
「…いやいやお姉様?え?…え?」
伺うように上の"姉"を凝視する。
姉は気丈に?不敵に、かな。はっと笑っただけだった。
…まじかよ…。
「下のお姉様は」
そう言ってみるも、まあ"手土産"的献上品の意味合いも込めている、というもっともなことを言われてしまう。
まあなんてこったい。
"私"はてっきり生涯見合いもなく女の子を相手どることだけをして、生きていくものだと、思っていた。
―――なのに。
なのに、私は、まるで上司の家に手土産でも持っていくかのように、権力のある家の次期頭首のもとへ、嫁ぐことになってしまった―――
……らしい。
等と私が驚きのあまり惚けていると、上の姉は午後から一人"客"がきている事だけを伝えて退室した。
……"お義兄さん"の元にでも愚痴りに行こうかしら。
私にそう思わせるには、十分な突飛でそれでいてとんでもない事態だった。
ーーーーー
「…それは。」
「わたしはもう胃が痛い。」
「……本当だね、その気持ちはよくわかる。」
「ありがとうりたくん…」
りたくんの部屋にいた。
りたくんは私の義理の兄。
旧姓、小百合谷波。今では柳杜波。
ああ、下の名前が波くんです。
先程の上の姉に婿入りしてきた御曹司なんだけど、私と同じとしなこともあり仲良くしていただいとる。
クセは強いけど私はすごくすき。
ーーーーこの家には数少ない、人間。
「そうか、でも私なんかあれだ。"こっち"同士なんだから、りたくんより全然ましな筈なのかなあ。」
「……まあ、その要素はないことはないんじゃない?まあ、奈栖はびびりだから、そこが無くてよかったんじゃない」
そう、私の場合は相手もーーーーー
同じ、吸血鬼、なんだから。
一族、柳杜。読み方は、りゅうと。
旧くから伝わる吸血鬼伝説の一部。
数ある吸血鬼一族の中でも、No.2の権威と歴史をもつ大きな一族。
うちの一族はある一定の歳になると"三兄弟"が選ばれることで有名だ。
長男。
表の人間の、社会に根を張るためおよそご令嬢を嫁に取るために、また政治をするために育てられる。
次男。
裏の人間の、社会に根を張るためおよそヤクザの子供を嫁にだとか婿にだとか行くために育てられる。
長男が決まって男なのに対し、2番めは状況をみていつも女だったり男だったりする。
長女(3番目)。
柳杜家最大の"仕事"のうちの一つ。
"美食"。
故にこの3番目の子供を基準に定期的に"兄弟"を組む。
男は"美食"にはなれないため歴代未子は女が務める。
今代は何故か男児が少なくまた才覚的にもあまり優れた人がいなくて、っていうかまあ上の姉がすごすぎるだけだけれど。じゃあいいだろうみんな女で。美食さえ作れればいーんだから、と私達は三姉妹になっている。
そんな、寄せ集めの兄弟が決まって作られる。その時期は主に未子である"美食"の嫁入りに合わせられる。
先代はキャリアウーマン気質もあり己の"美食"としての"味"に自信とプライドを持っていた。だから嫁入りはとても遅かったそうだ。
……まあ、私は"美食"として完成してまだ3年と経たない乳児みたいなものだが。それなのに嫁がせる、なんてやはり不景気、柳杜家も相当なダメージを受けて居るのだと思う。
「まあ…うん、元気でやるのよ」
「ありがとうりたくん…」
この辺りでお腹が空いてきたので私は仕事もあるし、とりたくんの自室を後にした。
end,
母親の次は、優しい義兄までこの肩書きは奪うのです。
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