翌日、すっかり慣れた私は朝から灰歩くんとおしゃべりしてました。
 というか、私行く時間早いのであんまり人いなくて、お互い話し相手がいなかったんだよね。

 ふたりでのんびり話しているとじわじわと人が増えてくる。
 オミがやってきたあたりになると、すでに灰歩くんの友達も来ていたようで、そこでばいばいをした。オミには少しからかわれた。

 そうして、いつの間にか聞こえてきた。

「うーわっまじかよこれ。くっそおもれえな!」
「うわ…いった!」
「これ実際どっちだったとしても相当キモいよな」

 …悪意のにじむ、笑い声。

 私たちは、いつも変なこと言ったりただお笑いでも見ているときと同じように"面白い"という純粋な感情で笑っているけれど。

 それでも、こんなのと同じように、他人をバカにしていることから笑うような、悪意に満ちた声と同じように聞こえているのだろうか。

 どうして、こんなに不快なものなのだろう。すくなのくとも、本人たちは"愉快"とかそういう感情で笑っているはずなのに。

 ぼんやり聞こえた内容だと、どうも矢棚さんのタイムラインかツイッターか何かをさかのぼっている人がいて、それで寝取られたらしい彼氏?との写真やら何やらをバカにして笑っているようだ。
 不快。

 …否。不快、というよりは、不安をあおる、というか。ただひたすらに、怖い。

 別に、私が言われてるんじゃないことだってわかってるけど、それもストレスで胃が痛くなりそうだ。だって、そういうこという人は些細なことで誰だってばかにして笑えるんだから。

 不安をつい確かめるように、教室を見回す。

 男子はおもに3つのグループらしい。

 ドア側、つまり廊下側の後ろの方に数人。窓際後方に数人。窓際前方に数人。

 ドア側の後ろにいる人たちが問題の人たち。ロッカーは教室の後ろに設置されているので、いつも取りに行くときに行きにくいな、と思う要因の人たちだ。たぶん、相坂さんたち運動部女子と同じ部活とかなんじゃないだろうか。運動部っぽい人たち。

 窓際後方の人たちは矢棚さんよりのひとなのかもしれない。そんな彼らに冷たい視線を投げては、不穏な雰囲気でひそひそしている。ヤンキーだかちゃら男だかを目指しているのか、そういう人たち。

 そして、窓際前方。
 すこし、ほっとする。所謂オタクとか根暗とか言われている男子組、と言ってもそこまで協調性ない人いないみたいだしふつうにほかのグループの男子とも話してるという地味に強そうな(森ガールたち的な雰囲気を感じる)グループに、やっぱりちゃんと聞いていた通りに灰歩くんはいた。

 彼らは各々バラバラのことをしてたりする。笑い声は時たま聞こえるが、それでも(先入観かもしれない。いしまきくんもここにいるから)あまり不穏な空気は感じなかった。

 なんせ、ああいう悪意の笑いをする人は苦手に思ってしまう。
 私は、それをできないから。

 でも、だから悪口も言えなくって、結果的に陰キャラだなんだと、言われてしまうのだけど。

 …クラス内での溝が、どんどん深くなっていくなあ。
 今まで、人の少ない学校でしか暮らしてこなかったし、1年の時は喧嘩するほどお互いの存在を認知してないような団結力なにそれ?なクラスだったから、はじめてのことすぎてとても戸惑っている。

 矢棚さんたちは、たぶん3人グループ。派手目なよくいる高校生。
 相坂さんたちは4人。運動部とかのハキハキ系。

 矢棚さんたちにつくのは、たぶん、軽音女子グループの4人と茶髪男子たち。
 
 相坂さんたちにつくのは、吹奏楽部のグループの3人、森ガールの3人、それに運動部男子。

 私たちと、もう一つのグループ(残念ながらカーストは私たちのところがしたから3番目、もう一つ1番した)は、われ関せず、って感じ。

 まあ、私が根暗だというのは割と認めよう。
 だけど、オミとかサクとかぜったい違うし。
 私らのグループは最多人数、8人なんだけど、ほかの5人だって元ヤンと、ギャルだったから今のギャルと対立してこっちに来た子とかそんな子ばっかなんだけどねえ。不思議だねえ。
  
 たぶん本当の明るさじゃなくて、ギャルと迎合するのかしないのか、が基準なんだろうなあ。

 まあ、そんなわけで、私たちは、もともと矢棚さんたちとも相坂さんたちともそんなに懇意にはしていないわけで、こういうもめごとがあろうとなかろうと、話しかけてこなければこちらからも別にからみにはいかない、という感じで。

 だって、今まで他人してた人が、隣人ともめたからって毎晩一緒に夕食とるようになる、なんてへんな話でしょ。

 と、まあそんなわけで男女両陣営、"陰キャラ"なんて呼ばれているグループはわれ関せず、なスタンスで行く感じだね。ってこと。

 まあ、そんな蔑称つけて、自分たちとは違う、なんて言ってきたんだから今更仲間になってほしい、なんて厚顔無恥すぎることは誰も、考えるわけがないと思うけど。

 
 そんな思いは灰歩くんも賛同してくれるようで、いつの間にか2人の間ではこの争いのことを"上部闘争"と呼ぶことになっていました。
 灰歩くんは"自称"根暗の"自称"陰キャラです。本当にそんな人はファミレスで知らないクラスメイトに話しかけたりしない…!


「…最近、授業中までピリピリしてない?」

 "隣近所と相談してもいいので考えてみましょう"みたいな古典のシンキングタイム。古典は得意じゃない。英語も。現代文も飛びぬけてはできない。
 小説なんか"こうだったらいい展開になる"とかいう考え方するから心情読み解けない。関係ないけど。

「そういえば、そんな気も、する…??
「やっぱり?」
「うん、なんとなく…」

 まあ、あんなんあってから、少し経ったとはいえ、溝はなおるどころか深まる一方ですからね。
 現実逃避をするように窓の外を見る。
 私は真ん中の一番前の席だから、窓は遠いけどそれでも空は春らしく明るい蒼を光らせている。

 窓際の、2列めには灰歩くんがいた。 
 あ、奴もたぶん窓際シンドロームだ。頬杖ついて窓の外を見ている。
 そしてノートが二冊出ている時点で私は察していた。

「弥蜂誰見てるの?」

 うしろから急に山見君。
 つつかれて、そちらを見る。

「石巻?」
「いしまきくん?」

 ちなみにいしまきくんは灰歩くんの前だ。
 新学期初日に席替えをした伝説の桜子のおかげで。
 ちなみに私とオミは目が悪いから、と今の位置にしてもらったのだ。
 一番廊下側だったのが、教卓の真ん前に。右にオミを置いて陣取っている。

 そして驚異的な偶然。山見君が後ろになった。
 ドンマイ山見くん。目はいいしよく寝る彼に、教卓真ん前はきつかろう。

「最近やけに石巻と仲良さげだから。あと灰歩?とかも」
「まあ最近たしかにちょっと話すけど。」
「ほんの貸し借りとかしてるし」
「マンガすきだから」

 よく見てるなあ山見君。もしや石巻君と仲いいのかな。



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