「…どうやってもやりづらい」
「山がなくて申し訳ないっすねほんと」
「そういうことじゃない」

 髪の毛をうしろで抑えながら、やりづらそうにんーとかいうマリくんの手を眺めてみる。
 …これが目的だ、とか。まさか。そんなわけないじゃん。ないよ、違うってほんと。

「そして胸がないのを否定しないマリ」
「嘘は人を傷つけるだけだからな」
「むしろストレートにランちゃん傷ついていると思う」
「え、そうか?」
「うん、割と」
「え、悪い?」
「い、いいよ?」

 オミが帰ってくる。
 案の定、私を見て安堵したような表情をつくる。

「オミ、ありがとう」
「いいえ」
「みんなもありがとうねえ。」
「いいのよ!」
「うんうん。データ保存はまかしといて。いつでもゆすれるよ」
「わあアイくん怖い」

 茶化しあいながら笑う。
 そうこうしていると、手早いマリくんはもうボタンをつけ終えてしまったらしい。

「さ、じゃあ服もちゃんとしたことだし、帰ろうか?」

 オミが手を引いて、ソファから立たせてくれた。
 続いて、アイ君も立ち上がる。
 私はマリくんと裁縫箱を片付けて、借りた先生にお礼を言って返す。

 先生たちはまだこわごわと、気遣うようにこちらを見ていて、気を付けて帰れよ、とかマリくんたちに送ってやれよ、とか声をかけてくれる。
 それににこやかに返事をして、職員室を後にした。

「アイスおごってやろうか」

 マリくんが唐突にいいだす。

「えー?悪いいよー」

 笑って遠慮しておく。

「いや、別に。"バイト"勢みたいなもんだし。いいよアイスくらい。」
「えー。」
「マリさすがー。ありがと!俺ダッツね!」

 もう一度悪いから、と言おうとするとアイくんが楽しそうに声を出す。

「じゃあ私も!ストロベリー」

 それに便乗してオミが手を上げながらいう。

「あたしはゆきみがいいわ!」

 サクも楽しそうに、からかうように宣言する。

「はあ?!お前らには言ってねえよ」

 マリくんも、笑いながらそう答えて。

「えーずーるーいー贔屓だーマリランちゃん贔屓するんだー」

 アイくんが肩をすくませて子供みたいな口調をする。

「知ってるだろ今更何を言う」
「マリは相変わらず歪みないなー」

 ドヤ顔で答えるマリくんにオミが笑ったところで、学校から一番近いコンビニへ到着した。
 サクにひかれて、私も一緒にコンビニへと入る。

「で、ランは何にすんだ」
「え、えー。」

 もはや籠を持たされているマリくんが聞く。

「なんなら二つでもいいぞ。こいつらに買うのに本来の目的に奴自身には買わないとかなんか理不尽な気がしてならんから遠慮すんな」
「え、あー…うん、そうだね、そりゃそうだ」

 じゃあ、お言葉に甘えて。
 缶コーヒーコーナーからアイスコーナーへ2人で移動する。

「なにがいいかなあ」
「なんでもいいぞ」

 そらそうだ。
 ダッツをはじめ、何なら箱に入ってる12本売りとかのものまで籠には入っているんだから。そりゃ私なんかが後に何を選ぼうと大して変わりはないだろう。
 そう考えて、少し笑った。

「じゃあー、そうね、これで」

 カップのチーズケーキ風フレーバーのアイスを渡す。

「ん。」
「ありがとう」
「いーえ」

 そう、そっけなく言ってマリくんはレジへ向かった。私もゆっくりと彼を追う。
 そっけないのは、言い方だけだっていうのが、最近分かってきた自分を見つける。仲良くなったもんだなあとしみじみ思った。

 ずっと、自分はああいうぶっきらぼうで、気の強そうなタイプはニガテだと思っていたのだ。言い方がきつい、とか。
 だけど違ったのだ。
 私が苦手だったのは、中途半端な人だった。
 マリくんくらいに普段からぶっきらぼうで、嫌いな人はシカトしてしまうくらいに気の強い人は、むしろ安心できるのだと、私は知らなかった。
 私が本当にニガテなのは、もっと世渡りがうまい人だ。
 表では仲よくしているのに、裏では陰口を言う。
 裏でこそこそとバカにして笑う。けど、当人の前ではどれだけその人が気に食わなくても毛ほどもそんな態度はしない。怖くてできない。
 そんな人が怖くてしかたなかったのだ。
 陰で人を悪く言う人が気が強い人だ、と勘違いしていたのだ。大きな間違いだ。

 彼のように、嫌いな人は近づきすらさせてもらえない、そんな人がそばに置いてくれる。贔屓だなんだと、軽口までたたいてくれる。
 それは、きっと、"好かれている"に、これ以上ないほどの信憑性を加えてくれている。と、思う。

「ラン、」
「あ、はーい」

 マリくんが清算を終えて私を呼ぶ。
 ぼけっとものを考えていたのをやめて、一緒に店員の声を聞きながらそとへ出た。
 ごみ箱の前で5人そろってバリバリとアイスを開ける。
 箱アイスはアイくんだったらしい。

「ありがとうね、マリくん。いただきます」
「おう」

 そういいながらアイスを食べる。
 みんなもなんだかんだとマリくんにお礼を言ってから口をつけていて、ほほえましくなった。
 
「ゆきみ最高よね」
「いいねー」
「ダッツうまい」
「遠慮ねえなあお前らまじで」
「アイよりは私なんてましなほうじゃないか」
「えー?」
「まあ…もうアイはあきらめてる…」
「なにマリ、一本食べる?」
「あ、じゃあブドウ」
「あいよ」
「いいなー。アイ、私にも」

 なんて会話しながらコンビニ前。
 パッと見たむろするコンビニ前の高校生とかガラ悪い感じですがね。
 まあ、歩きながらもアレなので…
 こうやってコンビニ前に座り込んで(私たちは座ってないけど)積もる話もあるじゃないですか。若いうちって。ね。

 帰り道ほど話が弾む、なんてそんなもんですよ、子供なんて。人間なんて。

「ランも食うか?」
「あーごめん私まっちゃ食べないから」
「そうか。それは失敗したな」
「じゃあ代わりに俺が一本あげよう。何がいい?」
「アイが完全にアイスキャンディーおじさんと化している」
「誰がおじさんですか。俺はまだまだ若いよ!」
「おじさん、セリフがおじさんだよ!レモンがいいな!」
「ランちゃんまで!まあいいや。ほーらおじさんがレモンのアイスをあげよう」
「アイって謎にノリいいよな」
「マリ、そんなほめても2本目はでないぞ」
「ほめ…まあ、褒めたに入るかな」
「サク、ついてるよ」
「ありがとうオミ」
「やだなにあの2人可愛い」
「いちいち言うことがおかんだよね、アイくんは」
「うちの子可愛いです」
「おか…ん…?」

 きゃいきゃいとごみ箱からそれて、邪魔にならなそうな位置でぐだらぐだらと話続ける。

 そうしてしばらくして。本格的に空が暗くなり始めたあたりで、とっくに食べ終えたアイスのごみを捨てて、ようやく帰り始める。

 結局誰も引かずに、みんなで私のマンションまで送ってくれたことに何回かお礼と謝罪の言葉を言って、エントランス前で別れる。

 そこまでは本にもなくて、予想もしていなかったから、申し訳ない気持ちになりつつ、ありがたく思いつつ。

 見えなくなるくらいまでは見送ろうと思ったのに、彼らも同じらしくて結局私が先に帰ることとなった。

 そんな、いかにも日本人らしいことをして、うちに帰りつく。
 別に、母親には何も言わなかった。学校も何も言わなかったらしい。(私の気持ちをくみ取ってのことだ)

 よかった、おかんにまで気を使われたら逆に疲れるわ。
 そう安堵しながらベランダにでた。
 まだ少し、楽しそうに話しながら帰っていく彼らが見えた。

 普段なら少しそこにいられないことを寂しく思うのかもしれないが、不思議と今日はそんなこともなく、ただ純粋に、彼らにも何も起こらないように、無事に家についてほしいとだけ思った。

 少しうぬぼれているのかもしれない。誰だって、あんなん見せられたら気を使うふりはするのかもしれない。

 だけど、あれだけ怒ってくれた彼らに、私は少なくとも嫌われてはいいないんじゃないだろうか。そんなあまり信憑性のないかもしれない思いだけが、あたたかく私に残っていた。


#11 end,



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