と、いうことでしっかり対策をするとかいうまるで賢い学生かのような用意周到っぷりでことに臨んでいます。

 4時30分。
 私とマリくんたち(心配してくれたらしいサクオミやアイくんも来てくれた。マリだけじゃ男手に満たないでしょとか言って)は少し話しながら、待っていた。
 5分前くらいから、彼女たちは隠れ、私は神妙な顔をして座っている。

「またせた、」

 3分前頃に、山見君がやってきた。
 ううん、と私は笑っておく。

 まあ、あとはとてもありきたりな展開。びっくりするくらい、短絡的。
 この人、まずは神妙な顔で、告白してきて。
 …ていうのも普段の私ならどうせ罰ゲーム、とか思うんだけどね。
 "本"的にはそうではなかった。だから、まあ茶化さず聞いておく。

 もちろん、返事はごめんなさい、だ。
 ちょっとね…山見君は決して悪い人ではないんだと思う。
 でもね、これからああいうことをするような人は、ちょっと無理かな。
 どちらにせよ、知ってたって知らなくたって、君みたいにいつも陰で人を馬鹿にして笑っているような人のそれは、信用できない。
 どうせ録画でもなんでもして陰で笑っているんだよね、きっとそう思ってしまう。だから当たり障りなく、罰ゲーム?大変だね。そういって笑うはずだ。

 とか考えていたら、どん、と押されてしりもちをつく。
 腕打ったし。痛いし。
 上に座られて、同時にスカートに手を突っ込まれる。
 今日は体操服の下じゃなく普通の私服のショートパンツです。脱がしにくいよ!どんまい!
 案の定めんどくさかったらしい盛大に舌打ちをされる。え、ご、ごめん?

「なに、もしかして分かってて来たの?」
「な、なにが…?」
「こういうことされる、ってこと。」

 胸倉を引っ掴まれる。まかせろーバリバリー的な?本当にこんなことするんだ。
 やけに冷めた目で、引きちぎられたボタンをみる。残念、下はキャミだよ色気なくて悪かったな。
 …ああ、ボタン。お前つけるのすらめんどくさい私になにするんだよ…
 そうだよ分かってたよ…

 がんっ

「いってえ…!」
「いだっ!?」

 突然山見君が頭を下げてきて、おでことおでこがこんにちは。え、え、痛い…!

「っち!そうかその方向だとこうなるか…」
「だからよく考えろと…!いま絶対ランちゃんにも被害いったよ?!」
「!?すまんラン大丈夫か!?」

 …ああ、背中からマリくんが蹴ったんですね、よくわかりました。

「無理…!痛い…!」
「わ、悪い…!」
「さて、山見君。」

 山見君もやっと理解したらしい。なにすんだ!とガラ悪くふりかえった先。
 にこやかに首パキパキするアイくんと、椅子を振りかぶるマリくんが…

「椅子?!椅子はまずい!ちょっサク止めて!」
「…ラン、止めるな」

 それはさすがにまずいと思う!
 止めに入りたいけど依然として山見くんはのっかかったまま。

「な、なんだよお前らいつのまに…!!」
「ああん?はじめっからだよ殺すぞクソガキ」
「ちょ、ちょ、ま、待て待てって!!」

 …マリくん?キャラ変わってない?え、いいのそれは。それでいいの…?!
 山見君はさすがに驚いたらしく、逃げるようにどいた。

「さて、どうしよっか、山見君。俺達にボコられて黙っておくのとー…
 大々的に、やったことばらされちゃうのと。どっちか、選んでもいいよ?」

 にっこり、アイくんは魔王さながらにじりじりと詰め寄っていく。
 …元ヤン、納得だなあ。
 マリくんは、私の手を取って、座る体勢まで起こしてくれる。

「大丈夫か」
「うん。」
「ごめん」
「うん、いいよ。たんこぶになったら湿布買ってきてね」
「ああ、でもそこじゃなくて。
 ちょっと、遅くなった」
「ううん、いや、全然」

 まさか。タイミングどおりでしたとも。本でよんだときも早すぎじゃないか、と思ったのだが、本当にそれと同じ様なタイミングだ。

 まあよくあるありきたりな話しなら、もう少し遅くて、かつ未遂でギリギリおわるタイミングなんだろうけど。

 あいにく、あまり人に触られたい質ではない。

「怖い、思いをさせた」
「してないよ。」
「カメラ、ちょっと事故って…でも証拠抑えないといけないと思って…」
「うん、ありがとう。ほんとに、大丈夫だから」

 マリくんが一部も見逃さない、というようにこちらを見ながらそっと手を伸ばす。ああ、怯えると思われている。
 うん?とにっこりと笑えば、そっと、まくれていたスカートが戻された。

「した、ズボンだから平気だったのに。ありがとう」

 確かに太い足は見苦しかったかもしれないけどね。

「いや…」

 きゃいきゃいと女子2人も山見君を問い詰めている。
 いやあ、いい女友達に恵まれたよ、私は。愛されてるねえ。
 ずりおちたシャツも、しっかりと肩までもどされる。おかん…!

 マリくんが、うつむいてしまったまま動かなくなってしまった。つむじ…

「怒ってくれてるの?」

 笑ってみる。小さく、うなずきがかえってくる。
 そうか。心配してもらってるんだなあ。

「そっかー。ありがとう」
「…大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫。おおよそ予想はしていた。だからマリくんたちに助けてもらったんだしね」
「そうか…なら、よかった。」

 きゅ、とまた両手を握ってから、マリくんが立ち上がる。
 …なんであの人は、私が嫌な距離の詰め方をしないのだろう。
 今なら、頭でも撫でそうな勢いだったのに。なのに、あえて手を握る。
 なんで私の中の許容できるラインを見極めてくれているのだろう。

 マリくんは、いつも距離は詰めめだし、何かと平然と触れてくるけど、それでも頭を撫でてきたり、頬に触れたり、そういう"私の嫌いな"ことをまるで知っているように避けていく。
 なんでだろう。
 別にあーんもできるしよっかかったりもできるけど、なんでかそういう"いかにも"なことは嫌いなんだ。女の子相手でもね。単に恥ずかしいのかもしれないけど。

「で、どうすることになったんだ」
「いや、なんかランちゃんはこういうの大ぴらにされるの嫌いなタイプだろ?みたいなことをぬかしやがってて…」
「…痴漢が、痴漢されても助けを呼べない系の女の見分けはつけられるというアレか」
「そうだねえ」
「じゃあ普通に学校側に突き出す方向…か?」
「そうだね。すこしボコる?これだけの"証人"がいてくれるなら、俺たちは"無実"で殴れそうだけど」

 不穏な話をする男子たち。そしてまだすごい剣幕で山見君を攻め立てる女子たち。…ううん、ありがたいなあ。

「そんな、まだ大事じゃないから…!」

 でも椅子でしばくのは本当にまずいと思うので、止めに入る。

「"未然"に防いでもらったのは"大事にしたくないから"だよ。
 私は、山見君の言うとおり知ってたから。だから、なんだったら事後にみんなに怒ってもらうこともできた。 
 でも、それはしなかったんだよ。それで察してあげて?」
「事後っておま…!冗談でもそういうことをだな…!」
「マリくん。…別に、冗談じゃないよ。
 別に、よかったんだよ。きっと、そうした方が、マリくんは怒ってくれたと思うからね。痛い目みせたい、とかそんなんなんだったら、きっと私は後者を選んでいた」
「…ラン、ちゃん…?」

 本気だ、ってばれているのか。
 アイくんがおびえるように見てくる。ええ、そんなに怖い顔してる?

「だから、マリくんたちが何か罰を受けなくなるようなことはやめて?
 初めから、"止めてくれればいい"って、頼んでるはず」
「また、そうやってお前は、」
「…ああ、そうかも。確かに、はたからみたら、"どれだけ傷つけられても最後にはゆるす"そんな奴に見えるかもしれないね。
 でも、あいにくそんなにいいやつじゃあないんだよ。
 そんなに、情の深い人間じゃない。興味のないものは、興味のないもの。
 興味ないものに、好きな人たちを遠ざけられるのは、いやでしょう?誰でも。」

 ぐ、とマリくんがだまる。
 分かってくれて、なにより。そうだよ、マリくんいないとか寂しいじゃない。アイくんいないと、サクがおうちに帰れないじゃない。

「ね。」
「…じゃあ、本人の御意向とあるわけだし、仕方ないけどこのまま職員室に連行しようか?」

 アイくんの言葉で、オミとサクが隠れていたところにおいてきたらしいカメラを回収して、そのまま職員室へ向かった。

 山見君は捕まった宇宙人のごとく、マリくんとアイくんに連行されていた。
 …なんか、気に食わないなあ。山見くんのあの手が、私を心配してくれた人に触れている。なんとなく、おもしろくない。気がする。

職員室に着く。

 案の定、先生は真っ青になって事情を問いただす。
 山見君に全部説明をお願いした。決して、私たちからは口を開かなかった。

 そんなわけで、2週間、山見君の停学が決まった。
 2週間停学くらいでいいですよ。って言い出したのは私。妥当なもんだよね?そうして、山見君は先生にどっかの部屋へ連れて行かれてしまった。
 先生に強制されて謝っていたけど、笑ってごまかしておいた。別に内心そこまで気にしてないんだけどね。

「ああ、別にそういう公にする感じのことはいいです。チクっときたかっただけなんで。というか誰か裁縫セット的なものもってないです?
 さすがにこれは恥ずかしい。」

 なんて適当にいって、コーヒーもらって、裁縫箱も借りた。

「んー…ね、マリくんつけてくれん」

 オミは画像のことやらなんやらで先生と少し離れて話をしているし。
 サクに頼むのは怖い。なんか分からんけどサクは怖い。
 となるとマリくんしかいないわけで。

「お前はまたそうやって…」
「マリって不器用そうよね。アイにやってもらえば?アイはそういうの得意よ」
「それはなんかいかん。恥ずかしい」
「おい俺は」
「マリくんは…なんか違う」
「それあかんやつや…!」
「口調」

 とかぶつくさ言いながらもやってくれるマリくんマジ素敵。 
 やったねこれで私は面倒な思いをしないですむ。
 だって、人に着けてもらったらこのままでいいのに自分でやるとなったらカーディガンもシャツもぬいでせないかん訳ですよ。
 それはもう。断然前者。

 それに、こうやって仮にも男であるマリくんを近づかせることで、本当に何も、まるでか弱いヒロインの様な笑顔の裏の心の深い傷、みたいなものはないんだと、すこしくらいなら分かってもらえるきがする。

 別に、そういう方面では優しくされたくない。
 されるならふつうにされたい。今日みたいに私のために怒ってくれる、とかそういった感じの実感の方がうれしいから。
 だって、同情ぶった甘やかしは、私のことをなんとも思っていなくたってできるんだから。



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