さてそんなわけでなんだかんだと学校が用意してくれたイベントよりもどうもフリータイムやら部屋にいる時間やらの方が記憶に残りがちな私たちも、そろそろ宿泊が終わりに近づいてきました。
朝食をとり、乗馬体験(これも色々ほかにもあって、希望したところに行かせてくれる)して、ついに最後のフリータイムとなってしまいました。
名残惜しいような惜しくないようなねえ。
あんまりさらっとしか記憶のこってねえや。いいんだけど。
「あーもう荷物はいらないわ!アイ呼んでアイ!!」
「アイくん完全おかん扱いやん…」
「あーもうほら、かしてサク。」
「そしてオミもおかんやん…」
「ランは疲れてるの?」
「いや、なせこと同じことを心配しているのだよ」
「あ。察した」
「ありがとう」
もちろん酔い止めは完璧だけれどね。
そんなわけで、最後はさすがに点呼をとってから、バスに乗り込みます。
思ったより本当にゆるゆるで、班が名ばかりのものでよかったと思う。
おかげで私たちはとても楽しくすごせたから。
…ほかのみんなはどうなんだろうなあ。
帰りのバスは矢棚さんたちすらも騒がないくらいにしんとしていた。
なんだかんだいって外で体動かしたひと達もいて疲れたのだろう。
大体が寝るかこそこそ話すかだった。
今回は私たちの横はハルカちゃんたちだったので場所代わるやなんやもなくただ隣のサクとたまに話したりしてすごしていました。
サクは意外に本とか読むような子なんだね。しらなかった。
さて、そんなわけでパーキングエリア。
私は酔いが激しいので迷わずおります。トイレにも行きたい。
「…ラン、気持ち悪い…」
一緒に降りたサクが死にそうな声で言う。
「えっ大丈夫!?」
「ええ…まだ吐きはしないとおもうけれど…」
そとのベンチにとりあえず座らせる。
どうしよう…薬はもうないし…
「と、取り合えずこれ食べて」
「梅…?」
「私の勝手な迷信だけど梅があれば酔いはすこしましになる」
「ありがとう…これが噂の酔った状態なのね…
行きは大丈夫だったのに…」
「疲れてたからじゃないかな?あと、本当に弱い人は本もやばいときあるけど…」
「そう、なのね…知らなかったわ…」
「ごめんね、私もサクは酔わないもんだとおもってたから…言ってあげればよかったねえ」
「ランの所為じゃないわよ」
その言葉にお礼をいって、携帯でアイくんに電話する。
おかんならワンチャン薬を持ってるかもしれない、っていうのととりあえずサクの体調不良は彼に伝えるべきだと思ったからだ。
「大丈夫かい、2人とも」
オミが、私らが見えたのか駆けつけてきてくれた。
「うん…サクが酔ったみたいで…今アイくんにも連絡したんだけど」
「そっか…」
すぐにアイくんも到着する。
水は頼んでいたので持ってきてくれたみたいだ。
「サク、大丈夫?水、のんで」
「ありがとう…」
「酔い止めももらってきたから、ゆっくり、次はこれを飲んでね」
「うん…」
結局時間いっぱい外ですごして、バスにもどった。
私と席を交代してサクに窓の外をなるべく見ているように言ったあたりで、バスが出発した。
「寝るのが一番良いと思うよ。嫌なら寝顔は見ないしついたら起こすから寝たら?」
「そうね…ありがとう…」
顔が真っ青だ、みているこっちが可哀想になる。
…と、私も人のことばかり心配していられるほど余裕はなかったんだった。
いやなめまいをかんじて、私も上を向き気味に目を閉じる。
大丈夫、私は酔い慣れているから、酔わない方法もきっとほかの子よりは知っている。そう自分を無駄に信じながら、梅の酸味がきついお菓子を口の中に放り込んだ。
結果…私の勝利でした。ええ、勝ちましたとも。
結局ぎりぎりのところで酔わないという神の所業を成し遂げて、私は今、学校へ帰ってきましたとも。ええ。
サクも薬が効いたのか、随分とましな様子に戻っていました。いやあ、よかった。
その後、小田中本と行事終わり記念というよくわからん理由で晩御飯を食べに行きました。
本の通りの小田のアレは終わったとしても、本関係のない彼女のブーム自体はまだ過ぎていかないらしいです。
まあ、人の悪口じゃないだけ全然ましだし、ご飯もおいしいからいいんだけどね。
『ねえ、弥蜂さあ。宿泊中、誰かに告られてたよね。ちゃんと断った?』
『え?う、うん』
『あと、質名たちの部屋にいってたよね。なにしての?』
『え、』
『トランプだよ…?』
とにかく、相坂矢棚事変が終わったことで私は安堵しきっていたのです。
だから、まだ忘れていることがいくつもあることには、全く気付けなかったわけで――――
#10 end,