なんだこのひとシャイなのか。シャイぼっちって言われてたもんな。

「友達?」
「う、お、おう」
「なってくれるの?」
「…?!あ、ああ、その、なってほしくて」

 なんだろうなあ。イケメン何しても可愛いんだもんなあ世の中つらいわ。

「うん、是非に」
「…あ、ありがとう…!!」
「こちらこそ」

 …そしてなんなんだろうこの茶番じみたのは。
 ドッキリ仕掛けたのはいいけど加倉くんを悪役にしとくのは悪いと思った結果だろうか。

「…ラン。本当にいいのか、そんな軽々しく」
「え、うん別に。」

 友達になって!って言われて断ったらどれだけ角が立つか。
 
「その…一応…お前にストーカーまがいのことをしてたやつだぞ」

 マリくんが少し引いたようにこちらを見る。
 いやいや、あんたがそうさせてるんでしょう。

「えーっとねえ。うーん…」

 "興味ないから"を、どうやったらオブラートで包めるのだろうか。
 どうでもいいから…加倉くんに悪いな…ううん…

「でも、なんか解決したんでしょう。ならいいんじゃないかな」

 …われながら、気持ち悪いこと言ってるなあ。
 どこの主人公様だ。ジャンプの法則か?

 私はあいにくいじめ小説・マンガでのいじめてたやつは最後仲直りはしても許さんタイプの人間だぞ。
 それがこんなあたかもこころのひろい素晴らしい女の子、みたいな。
 …いや、われながらガチで気持ち悪いな。

「いや、ほら、まあ私心広くて性善説とか支持してるわけじゃないんだよ?
 そんな底抜けに明るいみたいなのキャラじゃないし…!そういうことではなくて…
 ただ、昨日あんだけのことをしてたみんなが、止めもしないなら問題ないんだろうなって」

 ちなみにあんだけのこと(あんな大がかりなこと)って意味ね。
 われながらいい言い訳。

「マリくんとか、心配してくれてたし」
  
 本人曰くは。してくれてたらしいし。

「…まあ、そうなんだが…」
「ちょっと信用しすぎじゃないかしら…」
「そうでもないよ」

 ごめんね。心の中ではたぶん、真逆に入るんだと思うよ。

「その、俺これからはもっとまっとうな感じであれするから」
「まっとう?昨日の感じ間違ってると思ってたの?」
 
 思ってた(っていう設定だった)の?

「いや、その時は正しいとか考えてなかった。よく考えたら、わかることなんだけどな」
「そう。なんというか…お疲れ様」
「ほんと、悪かったな。嫌わないでくれてありがとう」
「いいええ」
「これからはああいうのじゃなくてもっとほら…サインとかにする!」
「お、おう…?」
「ってことでここに名前書いて」
「しゃ、シャーペンでいい?」
「おう!」

 …変な人だなあ…!

「おいやっぱりあいつアウトだろ」
「アイ、口調。」

 アイくんは、それでもそういいながら笑っている。
 なんだろう、たぶんこれで一件落着ってことなんだろうな。

「これからは、厳しめに俺が見張る。
 だから多少わがまま聞いてやってくれんか。そうしたらまたあのアウト気味な行動はしないと思ったんだが」
「うん、そうね。分かった」

 なんというか、うらやましいね。
 もしもこがガチでドッキリとかではなくて本当のことだったとして、そんなことがあっても、(役柄上は)気持ち悪い加倉くんの一面を見てもちゃんと友達のままで、とか精神論のように"友達が道ふみ外したら戻してやる"とか。
 
 そういった感じでいられる関係はとてもうらやましいね。そしてほほえましい。

 もしかしてストーリー立てはマリくんだろうか。
 基本的に半々の割合で綺麗な(きれいごと的な意味で)終わりのものと後味悪いのを書くからなあ。まことわさん。
 とっても良いと思うんですよね。

 そうやって仲良さげに笑ってるのとか。

「お前本当気持ち悪いな」
「うるせえ」
「っていうかセロハンテープ?」
「消えたら問題だろ」
「上から張るんだね…」
「なんか私のノートみたいになってる」

 なんだかこの流れに妙にでじゃぶを覚えながらも、おかしくて笑う。
 よくあるジャンプの法則ですよね。
 そしてそういうマンガでは基本的に元敵(別に加倉くんは敵でもなんでもなかったけど)とかの方が好きになってしまう弥蜂の法則。

 どうしよう、加倉くんもあと入りってことで好きになる展開説濃厚だなあ。
 なんかすごい和むし。

「よかったなー加倉脱ぼっちじゃねえか」
「うるせええ」
「マリとアイは友達じゃなかったの?」
「しっ!サク、そういうデリケートなところに触れるもんじゃないよ」
「言っとくけどたぶんオミが一番失礼だよ」
「それにつっこむアイもな」
「確かにそうよね」

 うん、和むし。
 ほんとなんだったんだろうか…

 むしろ加倉くんのためにお友達増やそう企画だったのかもしれない…
 
「あとシャーペン交換しようぜ」
「えーエアブランだったらいいよ」
「いや、同じシャーペン持ってるんだ」
「あら、ほんと。黒テクトが」
「そう。だからこれとこれと2本変えようぜ」
「え、う、うん?いいよ、同じなら…」
「おーさんきゅー!芯は2Bでいいんだよな?」
「?!マリくん…こいつ…できる…!!」
「いや、残念ながらストーキング知識だ」
「否定はしない。らんこが好きだったから覚えた!」
「謎すぎる!」

 おもしろいなあ。
 なんなの、オープンストーカーキャラやるの加倉くん…
 弥蜂に好意的なふりとか大変ね。罰ゲームかなんかか。

「これからはもっとあけっぴろげに行くからな!」
「アウトだよねそれ」

 けらけらアイくんも笑う。

「ああ、そうだ。ランって呼んでよ加倉くん。」

 らんこ、はやはりくすぐったい。

「名前はダメか…?」

 だからその伝家の宝刀の悲しそうな顔やめようよ!こっちもつられて悲しくなるわ!!

「い、いやだからあだ名の方が仲がいい感じでしょう…!
 サクたちもランって呼んでくれるし…!」
「…!た、確かに…!」
「ね。」
「じゃあラン!俺もなんかあだ名で呼んでほしい!」

 お、おおう威勢がいいな少年…!

「そうね…(まさ)って(みやび)って書いて"まさ"なんだよね。」
「そうだぜ!」
「全然雅でもないけどね」
「アイうるせえ!」
「じゃあ(みやび)くんだね」
「お前はそれ好きな」
「マリをマリって命名したのもランちゃんだもんね」

 なんとなくそういうギミックが好きなんだよ。

「そうだねえ。」
「みやび、かあ…女みてえだな」
「なんとなく、マリとかアイとか女の子っぽくして呼んじゃうんだよねえ」
「確かになんとなく面白くていいよね」

 オミが援護?してくれたおかげで、加倉くんも雅くんで落ち着いた。ミヤビくん。

 …難しいなあ。

 これで、昨日のことを信じたようにミヤビくんにおびえてもきっと"悲劇のヒロインぶりっこ乙"とか言われるだろうし、かといって今日の私の反応でも"男ならだれでもいいんじゃねえか"とか言われそうだし…

 本当難しいよ。まあ、そもそもそんな風に悪意の言葉を陰で言われるほど嫌われてるなら、今更なにをどう反応しても一緒だとは分かってるんだけど。
 こればっかりは仕方ないよなあ。性格だよ性格。

 そんなことを割と本気で胃を痛めながら考えつつ、その反面それでミヤビくんという"話せる"人間が増えるのは喜ばしいことだよなとは思った。

 まあ、ミヤビくんはわりと本気でぼっちのようなのでその分陰口の広がりは本来よりも狭いのだろうと思う。
 だから好きだよ、ぼっちって。

 そんなひねくれた性格全開でだけど本当に心からアイくんたちのかけあいが面白くて、笑う。

 きっと誰でもそうだ。
 心と体だけじゃない。
 頭と心もきっと別々のものなんだろう。

 頭で考える危惧してしまう可能性と、目の前で感じる楽しさというのは、こんなにも共存し得るものなんだから。


#09 end,


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