ぶん、と携帯が自己主張。
何かと思って開く。昼休み。
灰歩くんからのラインでした。かけたよ、っていう旨の。
私はオミとサクの話を聞きつ、お弁当を食べ、なおかつ「まじか。見てくる」という返信を返して早々にサファリを開いた。
タイトルも、事前に決めていた。
短編倉庫の、"一番上"に私をモチーフにした話を書いて、設置すると。
タイトルを探す。
―――否。探す間もなく、それは一番目に付くところ、つまり一番前にあった。
タイトルも、もちろん寸分たがわず、同じもの。
…あんまり信じられない、いや、実感がないけれど、本人ということらしい。
まあ、いづれにせよ、ここまでしてもらって、信じていない、という態度をとることは私には無理だ。
ということで、灰歩くんは、間違いなくまことわさんだということだ。ちらと後ろを振り返る。オミを向いて食べていたから、振り返ると灰歩くんがいる。
灰歩くんは、そんな私に気が付いて(っていうかまあそんなに離れてもいないんだけどね)どうだ、と言わんばかりにほんの少しだけ口角を上げた。笑ってるとこ初めて見た。
私も頷いて返す。ラインでも疑ってごめんね、と書いた。
んなぁこたあいい、というような返事が返ってきた。灰歩くんの返事には続きがあった。
『これで、正式に俺とお前は作者と読者なわけだ』
『さて、それで、だ。知っての通り俺は作者贔屓だ。』
『ってことでこの瞬間からお前のことを贔屓するからよろしく』
…もしかして灰歩くんっておらおら俺様系?俺様すごすぎるぜーみたいな。
いやまて、そこじゃない。突っ込みどころそこじゃない。
『贔屓とは、なんぞ?』
『蘭子、だったな。下の名前。それともランの方がいいか』
『えっ』
スルーかよ。
『じゃあ、ランで…?』
とりあえず既読無視はまずいので、はてなつけつつも返しておく。
『俺のことも名前な』
『真理くん?』
『そうそう』
『じゃあマリくんで』
無茶ブリには多少自分の意見も通させてもらおうってスタンス、弥蜂でございます。
そもそも女の子でも実は呼び捨てに抵抗あるにんげんですからね。あだ名とかならまだしも。
そんなにいやなんだろうか。
灰歩くんはこちらを見ていた。えー、もしや睨まれてる?
『女か』
『えー、あだ名どうしの方がいいかと思ったんだけどww』
と、冗談っぽく濁しておく。
じつはまことわさんショックから抜け出ていないからね。
まさかアレらを書いてる人を呼び捨てとかなにそれ恐れ多い。愛称ならまだしも。
『いや?ならほか考えるけど』
そういえば、
『いや、いい。そう呼んでくれ』
と、すぐに帰ってくる。なんだ、それでいいんだ?いやだったわけではないのかね。
『おっけーじゃあマリくんねー』
『おう』
会話がひと段落つく。
適当なスタンプを押す。
いつの間にかなじんだ2人の暗黙の了解。
私が意味のなさげなスタンプをついたら、もう会話は終わっていい。
もちろん続いてもいいけど、そのままじゃあ落ちる、とかなしでもうふたりとも離脱する。返事はいらないよ、ってこと。
灰…マリくんはさくっと会話を終わらせてくれるし、ばいばいの応酬がない上に、返事するのお互い遅いからすごい気楽。
私がラインで気負わなくていいのは基本的に返事が遅い相手です。
のんびりとしていたい。
「ラン、なんか分かんないけどにやけてるよ」
「えっうそ」
オミに指摘されて、反射で口元を抑える。
早く読みたいからか。楽しみだからか!!否定はせんよ!!
「どうしたのよー。それずっとみてるし」
サクが携帯を指さす。
そういえばサクはまだラインくらいしか携帯を使えない。
初めて持ったのだそうだ。厳しい親もまだ現代にいたもんだ。
「いやあ、ちょっとね。小説、新しいのでてたんだー」
「それでも小説読めるの?」
「うん、まあ一応。」
「すごい時代よねえ」
「サク、おばあちゃんみたいだね」
「しっつれいねー!」
きゃいきゃい笑いながら、携帯を置いた。
――――
ああそうだ、サクはゲームとかしないのー?とかいいつつ自分のやってるゲームそ2人に布教したりなんやして、放課後。
今日は、オミに呼び出されていたから、事前に小田と中本の方には伝えてある。どこで話する?と内心何を言われるのかびびりながらも平然を装う。
「あんまり人のいないところがいいな。どこか知らないかい?」
そういえば、この人も転校生だとかなんとか言っていたな。
私もいまだに校内で迷うので、記憶がしっかりしている数少ない場所を思い浮かべていく。
「ああ、パソコン室は。あっこほとんど人いないよ放課後」
「空いてるんだ」
「あけっぱなしだね、だいたい」
「そんなので平気なのかな…」
そんなことを話しつつも2人で移動。
し終わって、神妙な顔で、2人して椅子に座る。
もしやなにかよからぬことだろうか。お前のここが気に食わない、みたいな。
「ああ、ごめんね。そんなにおびえた顔しないで」
ばれた。
オミが困ったように笑う。
「人を避けたのは、ちょっと信じがたい話をするからなんだ。決して、何か脅したりしようとかじゃないよ」
「信じがたい、話?」
うん、そうなんだ。
じゃあ本題に入ろうか。
オミがどこか上っ面なような笑顔を浮かべる。
「まず聞きたい。最近、"変な本"を、読まなかったかい――――?」
「"変な本"…?」
「そう。たとえば――――
ううん、単刀直入に言おうか。
"読んだことが現実になる本"の、ことだよ」