と、そんなわけで午前中だけの学校も終えて現在下駄箱に向いなう。
…なうももう古いなあ。
どうでもいいことを思いつつ、朝一緒にきた友人と、もう1人と3人でいまからお昼ご飯だ。
「あ、あの、あなたc組よね?」
くいっとカバンが引っ張られた気がして振り向く。よね、なんてきれいなおんな言葉リアルでなかなか聞かないなあ。
振り向いた先には髪の毛長くてくりくりの、色素の薄い女の子。
着崩した制服(…は、私も人のこと言えないけど…)に、綺麗な顔で、わあギャル系、とちょっと引く。キツそう。
「うん、そーだけど」
営業スマイルを忘れずに答える。
「ちょっとたすけてくれない?」
ずいっとみせられた困り顔をバックにしたスマートフォン、もといアイフォン。
プッシュ通知が出ていて、図書室までこれる?とのこと。
「図書室、って、どこ?」
子犬のような顔で聞かれる。連れて行って欲しいの、と。
まあ、基本断れない主義ですし、そもそもこんなお願いなら誰だってきっとことわらない。
友人にちょっと遅れるからまってて、とだけ連絡して、その女の子にあっち、と指を示した。一年生かな、そう思ったけど、リボンは私と同じ色、つまり二年生らしい。
「ありがとう、助かったわ」
「いいよー。」
「あたし、糸由サク、って言うの。よろしくね」
「うん。私弥蜂蘭子だよ。サクちゃんもc組?」
「ええ。でも学校なんて始めてだからとても緊張してるの。友達もまだいないし…。」
…………ん?
学校始めて?
言い直すそぶりもないから言い間違いでは無いのだろう。
今まで通信だったとか不登校だったとか、かな。高校デビューかな、いやでも詮索するのも失礼だし聞き流そう。
なんて思いそっかー、と返す。
なに、固定概念無い人、ふたりめ?
まあもしくは高校入り立ての年頃に良くありがちな"キャラ作り"の可能性もあるけど。
それならそれで、そんなことするやつは中二病が多いんだからより問題ない。
私はみんなのためならなんでもできるから、とかいう聖女ぶったり元ヤンですのフリしたりそういう度の行き過ぎた捏造はお宅および根暗が大好きなんだよ。すくなくとも私の周りでは。
そして私はそんな人種が大好きなんだよ。
「あ!」
いきなりサクちゃんが私を見る。
「ランはもうあたしの友達?」
本当に人馴れしてなさそうなこだなあ。そのギャル系の見た目で。
それが演技ならすごい。可愛い。
「うん、サクちゃんがいいなら友達」
あくまで曖昧に、私の意見は入れずに答える。
「嬉しいわ!それならランはもうあたしの友達ね!友達第1号!友達なんだから、あたしのこともサクってよんでよ!」
屈託のない笑顔。
とても純粋な子供を連想させる。純粋、無垢、そんな、感じ。
にしても、"友達第1号"に任命されてばかりだな今日は。
まあ、新学期だし高校まで人の少ない学校だったし、多い所はこんなもんなんだろうかね。
「うん、そうだね、じゃあ、サク。
……あ、あれが図書室の入り口だよ」
見えてきたのでぴっと指を指す。
途端、サクはアイ!と手を降り出した。
いるのは男子1人だけ。
アイ…、女の子は見当たらない。
あの人がアイなのかなあ。男子なのに。ぼんやりと思う。
「サク!よかった、」
「うん!もうダメかと思ったわ!でもねランが、」
「ありがとうございます。助かりました…。」
なんだかアンニュイな雰囲気の長髪ひとつくくりの男子は深々と頭を下げる。
いやいや、とだけ答える。
「同じクラスの、えっと…」
「弥蜂蘭子よ!」
「やはち、さん。俺、質名藍、です」
聞こえたらん、の響きにすこしひやっとする。違う、私では無くこの男子の名前だ。
「らん、の字が藍色のあいだから、サクにはアイって呼ばれてる、です。」
「そっかあ。あ、敬語いらないよ?同じクラスなんでしょ?」
「ああ、ありがと。」
あたしの友達なんだからアイとランも友達よね、となんだかもはやベタすぎることを平然と行ってのけるサク。
そんなサクをかくるスルーしつつ質名くんはじゃあ、帰るね、と言った。
それなら、と下駄箱まで3人で歩いて、ようやく私は友人達と合流できたのである。