※独自の解釈をかなり盛り込んでいます、未来捏造注意! ※高校一年のウィンターカップでは、決勝戦にて誠凛が洛山を下したという捏造設定の元で話を進めています。
私たち三年生にとっての最後のウィンターカップ、最後の公式試合、高校三年間のすべてをかけた戦いがついに幕をあげる。
「ついに、ですね」 「うん」
この三年間、いろんなことがあったね。一年のインターハイ、最初の挑戦では残念ながらその舞台に立つことは叶わなかった。テツくんにとってのかつての相棒、青峰くん擁する桐皇学園に無念の惨敗を喫した。そしてその年のウィンターカップ、誠凛のすべてを賭けて、借りを返した。
「最後の、大舞台です」
そのあとも、いろいろあったね。青峰くんの桐皇学園、緑くんの秀徳高校がいるこのブロックは本当に激戦区で、再び辛酸をなめたこともあったね。だけど、全国の舞台にもう一度勝ち上がって、黄瀬くんの海常高校、紫くんの陽泉高校、征ちゃんの洛山高校と激戦を繰り広げたときもあったね。かつてのチームメイト「キセキの世代」や他の強豪校との歴史に残る名試合の数々。まさに「キセキ」なんじゃないだろうか。十年に一人の天才が五人同時に存在できたこと、それはまさに奇跡であり、そしてとても幸運なことだったんじゃないのかな。そして、みんながいたからこそシックスマンであるテツくんもまた、こんなにも輝ける場所を見つけることができたんじゃないのかな。6人のうち誰か一人でも欠けていたら、こんなふうに輝くことはきっと叶わなかったね。
それぞれが選んだ道で見つけた出会いの数々。バラバラになったんじゃない。みんな、それぞれが自分で選びとった道のその先で、それぞれみんな新たな力を手に入れたね。その新しい出会いもまた奇跡なんじゃないのかな。みんながまた、コートの中でも笑い合うことができて本当に良かった。私は相変わらず外からみんなを見守ることしかできないけれど、それでもやっぱりバスケが大好きだって、そう思うよ。
*
「千加」
そうして、私たちの高校生活最後を飾るウィンターカップの火蓋が切って落とされた。
「征ちゃん!」
すでに全国大会での恒例になってしまっているが、開会式が終わると通常通り征ちゃんが私に会いに来た。いつも思うが、どうしてそんなすぐに私を見つけられるというのか。まあ、私も征ちゃんを見つけるのは得意だし、そこはお互い様なんだろうか。だとしたら、うれしいことだなあ、なんて。
「やっと、会えたね、千加」 「え、ちょ、離して征ちゃんー!」 「それは無理なお願いかな」
私と目が合うや否や、本当にうれしそうな笑みを浮かべた征ちゃんは、誠凛のみんなが見ているにもかかわらず私を強く抱き込んでしまった。私の抵抗なんてものともせずに、征ちゃんは本当にうれしそうな声色で、穏やかに微笑んでいた。
「相変わらずですね」
そんな私たちを前にしたテツくんの呆れ顔も、もはや恒例となっているのであった。
「やあ、テツヤ」 「はい、赤司くん」 「戦うとしたら決勝戦だね」 「そうですね、なんだかデジャヴです」 「そうだな、決勝戦で待っているよ」 「その言葉、そのままお返しします」
いやいや、感動的かつ熱い再会を遂げるのは結構ですけど、征ちゃん、私を抱き込んだまま、私を挟んで会話するのやめてもらえませんかね!ていうか、テツくん、助け舟出してくれるかと思ったのに!呆れるどころか、とうとうスルーしちゃうの、ねえ!
「離してよお征ちゃんー!」 「ふふ、ダメ」 「お願いだから!」 「いやだ」 「…征ちゃんの顔、ちゃんと見たいんだよ……!」
私がそういうと征ちゃんは、ふふ、とおかしそうにうれしそうに笑いながら、ゆっくりと私を解放した。そうして開けた視界に映るのは、ひだまりみたいなあたたかい微笑み浮かべた私の大好きな征ちゃんの顔だった。ああ、やっぱり私は。
「征ちゃん、大好きだよ」 「ああ、僕もだよ、千加」
会うたびに、会わずにいた期間の積もり積もった「好き」の気持ちがあふれ出してしまうのは、どうしてなのかなあ。会えない間に、ひとは「好き」の気持ちを深めるのだというけれど、本当にそうなんだなあなんて実感してしまうね。長い間会えずにいた分、想いは深まって、会えたときこんなにもうれしくていとおしい気持ちがあふれてしまうんだ。幼いころからずっと隣りににいたからこんな「好き」は、私たちの知らなかった「好き」だね、征ちゃん。
「イチャつくのはよそでやってください、このバカップル」
なんて、甘い雰囲気はテツくんの絶対零度の一声で一瞬にして氷解してしまったけれど。ああああ、皆さん本当にごめんなさい、わざとじゃないんですよ!
「それより、赤司くん」 「何かな、テツヤ」 「何か、用があったんじゃないんですか」
少しだけ微笑みながらそう言ったテツくんに、征ちゃんはわずかに目を見開いて驚いたかと思うと、「テツヤには敵わないな」なんて珍しい発言をしながら苦笑していた。ええ?一体どういうことなんだ?征ちゃんの用って?
「もちろん千加に会いたかったってのが一番の用だけれど」 「そういう前置きはいいです」 「え、どういうことなの?征ちゃん」
征ちゃんは私に目を合わせて、ふふ、とさらに上機嫌に微笑んだかと思うと、私の手をとって、いつかの仲直りの日のように強く絡めるようにつなぎ合わせながら、それから、誠凛のみんなの方向に向き直ってこういった。
「今日のきみたちの試合が終わるのは夕方ごろだろう?」 「そうですね、4時ごろには終わっていると思います」 「その試合が終わったら、今日一日千加を貸してくれないかな」
んん?試合が終わったらってこと?でも、今日の試合が終わったら普通なら次の対戦校のDVDを見てスカウティングするところなんだけどな。残念ながら今年はリコさんは卒業してしまっていていないので、今年からそういう類のことを率先して担当しているのは私だし、征ちゃんもそれは分かっているだろうに。高校生活最後の大舞台なのに、まさか放棄するなんてできるわけがない。
「どうぞ、持って行ってやってください」 「え!ちょ、テツくん!?」 「確かに試合は大切ですが、それでも二回戦は明後日ですから、一応明日一日ありますしね」 「で、でも!最後なんだよ?」 「それでも、です。明日は返してくれるんでしょう?」 「ああ、約束するよ」
本当は明日も独占したいところだけどね、なんて征ちゃんは苦笑するけれど、だけど、だけど。
「でも、テツくん」 「キミだって、ずっと赤司くんに会いたいのを我慢していたでしょう」 「…でも、」 「大丈夫です、もちろん明日はきっちり働いてもらいますけどね」 「そ、それはもちろんだけど……!」 「それに、大切なのはどうやら試合だけではないようですし、ね」 「え?」
何故かテツくんが顔をほころばせている一方で、征ちゃんは困ったように苦く笑っている光景に、私はただただ疑問符を浮かべることしかできない。ええ?なに、どういうことなの。テツくんは、本当に一体何を知っているというのだろうか。
「では、千加さん、そういうわけで話はまとまりましたね」 「えっ、えっ、なんなの」 「千加」 「え、うん?なに、征ちゃん」 「試合終わったら、迎えに来るからね」
そうして、征ちゃんは私の額にキスをした。だだだだから!!!そういうことするのをやめろって言ってんだろおおお!と私が顔真っ赤にして怒っている横で、テツくんは対照的に凍てつくような絶対零度の目線を私たちに投げかけていた。ごめんなさい、こわいです、テツくん、許して。
「じゃあ、あとでね、千加」 「う、うん!征ちゃん、あとで!」 「では赤司くん、決勝戦で」 「ああ、必ずそこで会おう、テツヤ」
テツくんと征ちゃんは穏やかに、されど静かに闘志は燃やしつつ、ふたりは言葉を交わした。ああ、そうだね、いつかのあの日をたぶんふたりは思い浮かべている。一昨年の、決勝戦のことを。
「赤司!ぜってー勝つからな!お前も負けんなよ!」 「もちろんだよ、大我。今度は負けないからな」 「はっ!言ってろ!!」
火神くんと征ちゃんはそうしてお互いに笑った。降旗くんも河原くんも福田くんも、火神くんの後ろでおんなじように闘志を燃やしていた。あはは、二年前、冷たい仮面の征ちゃんにビビっていたのが嘘みたいだなあ、なんて。もちろん、征ちゃん自身が変わったというか、昔に戻ったっていうのもあるだろうけれど。それでも、みんな本当に強くなったし、頼もしくなったね。誠凛高校バスケ部が、やっぱり私は大好きだ。
「千加、好きだよ」
そういって、征ちゃんはもう一度私の額にキスをして、名残惜しそうにしながら戻っていった。
130201 愛撫でる指先 4
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