※一部青峰くんの発言がお下品です




征ちゃんのお誕生日までついにあと一週間を切ってしまった。残念ながら当日に直接渡すことはできないので京都への郵送ということになってしまうため、いい加減早く決めなければならないということは百も承知だ。分かってはいるけれど。それでも、やっぱり悩んでしまうのだから、本当にどうしようもない。やっぱり心のこもったものを、征ちゃんが喜んでくれるものを、贈りたいという気持ちがさらに私を悩ませている。


ここはあれか。みんなに相談するというのもひとつの手だろうか。テツくんにもたしなめられたことだしプレゼントは私というあの気恥ずかしい話は伏せて、ということになるけれども。それでももしかしたらみんななら何かいい意見を挙げてくれるかもしれない。異性の私では思い付かない観点からの意見が同性の友人たちからもらえるかもしれないし、案外いいインスピレーションを得ることができるかも!


というわけで、中学時代の友人たちに征ちゃんのお誕生プレゼントは何がいいだろうかと意見を仰いでみた。


さっちゃんの場合
『え?赤司くんへのプレゼント?うーん、中学の時は確かマフラーをあげてたよね?そうだね、赤司くんって物欲とか特別な趣味とかあんまりないひとだから難しいよねえ。あ、あれは?赤司くん、結構本読むじゃない?だから、本とかプレゼントしたらどうかなあ?』


紫くんの場合
『赤ちんへのプレゼント?ん〜、伊藤ちんが選んだものだったらなんでも喜びそうだけどね〜。俺はなにあげたらいいか分かんないときは自分のほしいものをあげるかな〜』


青峰くんの場合
『はあ?赤司へのプレゼント?……あー、あれだ。お前のパンツでも送ってやれよ。オカズ用に。あいつ、絶対たまりまくってるから、ぜってー喜んで使うわ』


黄瀬くんの場合
『えー?赤司っちにっすか?そうっすね、赤司っちたぶんお疲れだろうから、入浴剤とかアロマキャンドルとか癒し系グッズなんてどうっすか?低反発クッションとか、最近は癒し系のグッズいっぱいあるから、意外といいかもっすねー』


緑くんの場合
『お前なりに人事を尽くしたものだったらなんでもいいのだよ。自分がこれだと思うものを贈ればそれだけで赤司は喜ぶ』


テツくんの場合
『そうですね、とにかく赤司くんの言った意味をよく考えてみてください。キミも本当は、分かっているんじゃないですか?それは、決してうぬぼれではありませんよ。赤司くんは本当にキミのことを愛していますからね、どうかそれを忘れないであげてください』


一人、とんでもない発言をしてる人もいるが、中学の友人たちの意見はざっとこんなかんじである。具体的なものとしては本、癒し系グッズ、……私の、パンツ、である。青峰くんまじエロ峰。もしも私がそんなことしてみなよ!きっと征ちゃんにビデオ通話でねちねち小一時間説教される上に、結局はなんだかんだくれるならもらうとか言ってパンツ没収されるんだよ!たぶんだけど!でもやっぱりパンツじゃなくて千加本人がいいとか言って今度は下着姿の私の写メを送れって要求されるんだよ!それで結局冗談だよとか、なんか半分本気っぽい顔で言って、羞恥心で真っ赤になった私の顔を見て満足するんだ征ちゃんは!たぶんだけど!とりあえず、常識うんぬんの前に、わざわざいじめられるネタを提供することはないので、勿論パンツなんて贈りませんが。ていうか、そんなことテツくんにバレたら絶対しばかれる。テツくん、本当に私のお兄ちゃんみたいなかんじだから最近特に。


とにかく抽象的な助言としては、自分のほしいものをあげる、これだと思った人事を尽くしたものをあげる、そしてそれから征ちゃんの言葉をよく考える、というものだ。まず、私の今ほしいものは合格通知だし、それ以外だと女の子特有のものばかりになってしまうので、この観点からは妙案を思い付くことは期待できなさそうだ。これだと思った人事を尽くしたものって言っても、これだと思うものが具体的に思い付かないんだよね。


あとはテツくんの、とにかく征ちゃんの言った意味をよく考えること、だけど。


――赤司くんは本当にキミのことを愛していますからね、どうかそれを忘れないであげてください。


「…私の、ほしいもの、征ちゃんにあげたいもの……」


征ちゃん、好きだよ、大好きだよ。あなたが生まれてからずっと、私の心はあなたのものだった。あなたが私の手をひいてくれるたび、あなたが私に笑いかけてくれるたび、想いは募った。昔から大好きでたまらなかったのに、それでも日増しに想いは大きく深くなるばかりで、今も想いを馳せるだけで好きの気持ちは膨れ上がるばかりだよ。切ないくらいに、あなたがすき、あなただけがずっと大好き。


「…征ちゃん」


距離が離れれば、この想いも少しは収まりが効くと思っていた。落ち着いた恋ができると思い上がっていた。でも、だめだった。結局、あなたへの強い想いを再確認にさせられただけで、会いたい衝動にこれほどまでに苛まれるなんて思いもよらなかった。今までの私たちは会いたいと思えばすぐに会える距離にいつだっていたから、会いたい気持ちがこんなに苦しいものだなんて、お互い知らなかったんだ。文字通り、私たちはずっといっしょだったから。


そして、ずっといっしょ、それがどんなに尊く難しいことなのか、私は強く思い知ったよ。ねぇ、征ちゃん、あなたもきっとそうでしょう?


だから、私がほしいもの、あなたにあげたいもの、征ちゃんが望んだことの本当の意味。テツくんが言った通り、その答えを私は本当はなんとなく分かっているんだよ。


「生まれてきてくれてありがとう、征ちゃん」


――今年もあなたの生まれた日をいっしょに喜び合おうね。あなたが生まれ落ちたあの日みたいに、私、何度だって心からあなたを祝福したいよ。







『…征ちゃん』


12月20日、例年通りビデオ通知をして日付が変わる瞬間に、電波越しではあるものの征ちゃんに直接「お誕生日おめでとう」を伝えることができた。そして、更に20日の夜、どうやらプレゼントが届いたらしい征ちゃんから通話のお誘いがあった。てっきり何か感想とかもらえるのかなあ、なんて思っていた。思っていた、んだけど。


『………』


何故か征ちゃん、だんまりを決め込んでいるんです。眉間にしわを寄せ、目線を右に向けてなにやら渋い顔をしている。これは、征ちゃんの考え込んでいるときのくせで、どうやら何やら言いたいことをまとめているらしい。


『えっと、……ごめん』
『………』
『他に具体的に思い付かなくてさあ…』


やっぱり選択ミスだったんだろうか。テツくんがうぬぼれじゃないって言ってくれたら、だから私なりに考えて考えて考え抜いて、やっと形になるものを選んだんだけどなあ。やっぱり、ダメだったのかな、伝わらなかったのかな、って不安がいっぱいで泣いてしまいそうになっていたとき、ずっとだんまりだった征ちゃんがようやく口を開いた。表情は、残念ながら変わらずだったけど。


『…千加』
『……なあに?』
『あのさ、ウィンターカップのことだけど、一昨年と同じで誠凛は初日が初戦で、二日目は試合ないよね?』
『えっ、……うん、そうだけど』


ウィンターカップ?いきなりなんで話が飛んでしまっているんだろうか。征ちゃんの意図が相変わらず読めない。画面の向こうでは、征ちゃんがようやく渋面をほどいて、いつものやわらかい表情でにっこりと微笑んでいた。


『僕は前日に東京入りするけど、例年通り前日はミーティングやらでバタバタするから会えそうにない』
『うん』
『だから、会えるとしたらウィンターカップ初日だね』
『え、うん?そうだね』


征ちゃんは相変わらずにこにこしたまま、プレゼントについては結局特に言及はしなかった。…せっかく本気で考えたのに、と正直ちょっとショックだったけれど、まあでも征ちゃん、何故かとても上機嫌だからいいかなあと征ちゃんの楽しそうな笑顔を見てたらなんかちょっとどうでもよくなってしまったわ。自分、ほんとお手軽。だけど、あと三日ほどでウィンターカップ。もうすぐ、征ちゃんに会えるんだ。秋は残念ながら大型連休もなく、あっても基本的にはお互い部活なので、最後に会えたのは夏休みが最後だったから、本当に久しぶりに征ちゃんに会えるんだなあ。ああ、征ちゃん、私もあなたに触れたいよ。いつもみたいに、惜しげもなく強く抱きしめてほしいなあ、なんて。


『千加』
『なあに、征ちゃん』
『会えるのが楽しみだよ』
『私もだよ征ちゃん!』


――大好きだよ、千加。おやすみ。


征ちゃんは花がほころぶような笑顔でそう言って、通話を切った。


130122
愛撫でる指先 3