そういえば征ちゃんの爆弾発言ですっかり話がそれてしまっているが、そもそも私の本題は別のことだったんだよねえ。わざわざウィンターカップ直前で疲れている眠そうな征ちゃんを引っ張りだしてビデオ通話してもらった本題の方を忘れてしまうところだった、危ない危ない。


『あ、あとさー、征ちゃん来週お誕生日じゃん?』
『そういえばそうだな』
『征ちゃん今年はどんなものがほしい?』


本当はやっぱりお誕生日プレゼントってサプライズであげたいところだけれど、だけどさすがに一緒にいて18年目にもなると難しいわけで。まあ、自分でプレゼントを考えるようになってからは物心ついてからだから大体十年くらいだけど、それにしても誕生日やらクリスマスやら年に数回プレゼントしてりゃ、いい加減ネタも尽きてくるわけで。奇を衒ったプレゼントはすでに一昨年のお誕生日でしてしまっているからなあ。とはいっても、途切れさせるのもなんなので去年も贈ったけど。今年もスターチスを贈るとして、あとは何がいいだろうか。


征ちゃん、今どんなものがほしいのかな。受験生ならではの合格通知や偏差値って言われても困るけど。むしろ私に分けてほしいけど。というか征ちゃんの性格からして言わないだろうけど。


『千加』
『…ん?』


なんなんだ、一体なんなんだよ。征ちゃん、今画面越しに超いい笑顔を浮かべているんですけど、なにそのさわやかスマイル。自分の顔面が放つ威力をこの人は理解しているんだろうか。18年間、見慣れた顔ではあるものの、それでもかっこいいものはかっこいいわけで。思わずときめいちゃったのは、征ちゃんには内緒だ。


『千加』
『…いや、え?なんなの?』


いやいや、ていうかそんなたわけたこと言ってる場合じゃなかった。私が未だに釈然としない顔をしている一方で、征ちゃんは相変わらずのキラースマイルを浮かべたまま、更に追い打ちをかけた。


『だからね、僕は千加がほしいんだよ』


………これはあれか。プレゼントは私!的なものを期待されているんだろうか。とりあえず、征ちゃん、そのむだにいい笑顔をやめてくれないでしょうか。







「ってなことがあったんだけど、どう思うよ、テツくん」


次の日、学校でテツくんを捕まえて征ちゃんの奇怪な発言について助言を仰いでみた。私がそういうとテツくんは心底呆れたという顔で盛大なため息をついた。ウィンターカップも間近に迫った今日という日に、なんつー話持ち出してくるんですかキミはって副音声が聞こえてきそうな感じではありましたが。ていうかなに、その冷たい顔。呆れ通り越して蔑みもちょっと入ってませんかね、テツくんちょっとこわいよ。


「キミの考えてることは、半分当たりで半分ハズレだと思いますよ」
「え、そうなの?」
「まあ、多分ですが」


ふむ、征ちゃんもやっぱり男の子ってことなんだろうか。征ちゃんとの遠距離恋愛がスタートしてからの数年間では、距離も遠くお互い多忙なこともあって数えるほどしか会えていない。だから、数少ないその数回の逢瀬のたび、征ちゃんはいつも私に触れたがった。周りに誰がいようとお構いなしに手をつないだり、腰をつらまえたり、肩を組んだり、挙句には前からでも後ろからでも抱きしめたりしたし、最悪の場合、お互いのチームメイトが見ている前で平気でキスをしてきたりしたものだった。ああ、思い出すだけでも恥ずかしい。その度にテツくんを筆頭とする皆さんに痛い視線をもらう日々だった。とにかくはずかしかった。


征ちゃんは会えない期間を、私に触れることで埋めようとしているかのように、会った日は片時も私を離してくれなかった。だけどそんな触れたがりの甘えたがりな征ちゃんではあるが、実はまだ一線は越えていないんだよね。たぶん、征ちゃんは大事にしてくれているんだと思う。私だって、そこまでうぶでも鈍感でもないから征ちゃんが本当に我慢してくれていることには気づいているつもり。だから征ちゃんが望むなら、望んでくれるなら、って私のほうは考えているんだけどなあ。征ちゃんも、そんな私の考えを分かった上で我慢してくれているんだろうけどさ。だけどそれにしても、半分当たりで半分ハズレってどういうことなんだろう。


「千加」


……テツくんが私を千加って呼ぶときってなんかスイッチ入ってるときだけど、なんなんだ。何したんだ、私。私さっき変なことでも失言しちゃっただろうか。


「千加」
「は、はい」
「ボク以外の人にそのことについてもう尋ねてはだめですからね」
「え、あ、は、はい」
「分かりましたか、千加」
「は、はい!」


テツくんはちょっと怖い顔で私を諭して、それから私が大きく返事をしたのを聞くと、それからふわりとやさしく笑って私の頭を撫でた。本当にやさしいまなざしで、ちょっと照れてしまった。うん、テツくんまじお兄ちゃん。


――さて、どうしたものかな。昨日の征ちゃんの無駄にさわやかな美麗スマイルを思い出して私は思わずため息をついた。


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愛撫でる指先 2