「赤ちんと伊藤ちんはさ〜」


どうした?紫原、ってちょっと首を傾げながら赤ちんが俺を見た。伊藤ちんは眠そうにまぶたをこすってて、視線だけこっちに向けた。そんな伊藤ちんを見て赤ちんが、腫れるからこするな、って伊藤ちん限定の過保護っぷりを発揮してた。


「二人はさ〜、中学どこ行くの?」


俺がいるチームと赤ちん伊藤ちんのいるチームは、あの交流試合の日からよく練習試合を組まれるようになって、2ヶ月に一回くらいの頻度で会うようになった。赤ちんがいうのに、俺がいるチームと赤ちん伊藤ちんのいるチームは強すぎて他のチームとじゃちょっと練習にならないから、どうせ練習試合するならってんで、うちと赤ちんたちのとことでよくやるようになったらしい。まー、俺は二人に会えればなんでもいいし。小学校は違うから試合でしか会えないからさ〜。


「俺、二人とおなじとこ行きたい〜」


だってたぶん二人だけだもん。背のでかいセンターの紫原敦じゃなくて、「俺」として扱ってくれんの。俺が勝てない相手、俺が唯一張り合えるライバル。しかも、二人は俺なんかよりも全然身長が低くて、「高ければ勝てるバスケ」じゃない。普通に身長関係なく強いから、すごく一緒にいて楽だし、たのしいもん。


「ああ、俺も千加も帝光中に行くつもりだよ」
「ん〜」


ていこう、ていこう。帝光?あれ、それってバスケ強いとこだっけ〜?てか確か私立で、受験校じゃん。なんて俺が考えてる横で、試合でつかれたっぽい伊藤ちんがついに限界だったみたいで、ぱたりと赤ちんのほうに倒れて、器用にも赤ちんの肩に頭を乗せて寝てた。赤ちん、全然びっくりしてないし。よくあることなんだろうな〜。それどころか、赤ちんすげーやさしい顔して伊藤ちんの頭撫でてるし。いいな〜。ほんとなかよくて。俺も二人と幼なじみがよかったな〜。もっと早く二人に会いたかったし。


「帝光中のバスケ部は強い」
「ん〜、だよね〜」
「紫原」


赤ちんが伊藤ちんを撫でる手を止めて、真剣な顔で俺を見てた。


「中学でもバスケ、するだろう?」
「ん〜、たぶん」


二人がするなら、二人とするバスケなら続けてもいいっておもう。


「紫原」
「なに、赤ちん」
「俺は中学でも負けるつもりはないし、全国制覇も成し遂げるつもりだ」
「…ん〜」


だろうなっておもってたけど。むしろ赤ちんが負けるのとか想像できねぇし。


「俺はお前の実力は認めている」
「…うん」
「お前は俺とは全く真逆の才能を秘めている」


まあ、PGとCだし。


「紫原」
「うん」


俺、今まで自分以外のだれかのいうことなんて素直に聞いたことなんてなかった。俺はすごくひねくれてて、わがままだって自覚あるくらいだし。でもそんな俺が素直にうなずけるほど俺が信頼する相手も、おんなじくらい俺を信頼してくれる相手も、今まで誰もいなかっただけ。


「俺について来い」


赤ちんはすごく偉そうにそういうけど、目はとても楽しそうだしやさしいかんじだった。てか、いちいち言われなくてもついてく気だったし。俺の返事なんて聞かなくてもわかったらしい赤ちんは、くつくつと笑ってて、俺は食べていた飴をがりっとかんだ。


「言われなくてもついてくし」


赤ちんはなんていうか、人の上に立つ人だとおもう。人を引っ張っていくリーダーみたいな人。伊藤ちんが前に王者の風格とか、先導者の器って笑いながらいってたっけ。でもまあ〜、赤ちんは大体そんなかんじだなあとおもう。そんな赤ちんのとなりに伊藤ちんはたぶん立っていたいんだろうね。んじゃあまあ、俺はそんな二人の一番近くで背中を守るかんじでいく〜。そういったら、伊藤ちんがおかしそうに笑ってたことおもいだした。


「それは頼もしいな、紫原」


頼もしいな、紫くんなら。二人はおんなじ顔して笑った。言われなくても、俺は二人を一番信じてついてってあげるし。んで、前を歩く二人の背中を一番近くで守ってあげるんだ。赤ちんと伊藤ちんの邪魔するやつは俺がひねりつぶしてあげる。


「赤ちん〜」
「ん、なんだ、紫原」
「勉強教えてね〜」


俺、今のままじゃ帝光受からないから〜って言ったら、赤ちんはちょっとだけきょとんとして、それから俺は厳しいからなって笑った。そんでいつの間にか起きてた伊藤ちんが、わたしも教えるよー、がんばろー、って眠そうに呟いた。それがあまりにもかわいかったから、俺は思わず伊藤ちんの頭をなでた。やわらかかった。


「紫くん、中学でもバスケしようね!」
「ん、伊藤ちん、約束ね」


絶対合格してやるし。三人でバスケするために、俺、がんばる〜。


「そういう千加も算数頑張ろうな」
「…あい」
「俺は全部やばい〜」


俺に張り合えるのも俺をまっすぐ見てくれるのも、二人だけだって思ってた。でも、案外世界は広くて、俺が二人以外にも張り合える相手を中学で何人もみつけるのは、また別のお話。


121221
こぼれ落ちた流星 end


紫原との初対面の話





キャプテンの器である赤司くんの横に立ちたい千加ちゃんと、そんな二人を信じて認めながらも一番近くにいたい紫原くんのおはなし。


キャプテンとしての赤司くんを一番信頼してるのはおそらく紫原くんですよねってことが書きたかったです。紫原くんのキャラクターは個人的に完全に解読・把握できていないので不自然かもしれないです。ミニバスについては前項で述べたとおりですすみません。


この小学生三人組の話、続くかも。