ああ、そんなこともあったね。
『っふ、』 『どうしたの、征ちゃん』 『いや、二年前のことをね、思い出してたんだ』
それは、みんながまだ傍にいたころのこと。
『懐かしいな』
あの頃が、きっと一番幸せだった。喜びに満ちていた。でもさ。
『征ちゃん!』 『ん?なに、千加』
今年だって来年だって、これからだって、もっともっと最高の誕生日がきっと待ってると思うの。それに誕生日だけじゃない、まだまだこれからだ。過去があまりにもいとしくてまぶしいから、つい忘れそうになるけれど、未来にはきっともっと輝かしいものが待っている。そんな気がしてならないよ、私は。
――12月20日、午前零時
『お誕生日おめでとう、征ちゃん!』
生まれてきてくれてありがとう。あなたに出会えたことは、私の生涯で一番最高の幸運だ。きっと、あなたが生まれた日にもう一度生まれたかのように泣いた私は、きっとあなたに出会うために生まれてきたんだろう。本当に、そんな不確かなものを信じられるくらいには、今、あなたと寄り添っていることで本当に限りなく満たされているから。
『ありがとう、千加』
これから、この先も、一番にあなたの生まれた日を祝えたらいいな。
*
『もしもし、千加?』
いくら最愛のひとのお誕生日とはいえど、今日も普通に学校だったのでいつも通りの日々を過ごした。だけど、今日は本当についつい機嫌がよくてにやけてしまっていたらしく、火神くんに「きもい顔してんぞ」と笑われてしまった。テツくんはテツくんで、その意味を分かってるだろうから、普通に笑って流してくれたけど。
『もしもし、征ちゃん?』
そして、そんなついにやにやしちゃう日をやりすごして、学校も放課後の部活もなんとか乗り切った。さすがにウィンターカップも近いのに、私一人私情で呆けているわけにもいかないので、部活中は全力で集中力高めてがんばったけど。そんな部活も終わって、家に帰って一息ついていると、今度は征ちゃんの方から電話がかかってきたのだ。他のみんなからもお誕生日メールがいっぱい来ていて、迷惑なくらいだったと征ちゃんが苦笑していて、私もほっこりしてしまった。
『プレゼント、届いたよ。ありがとう』
なんて笑う征ちゃんに、思わずほっとした。残念なことに、今年は直接渡せないのだから、せっかくだから何か趣向を凝らしたものを送れないかととても悩んだから。さすがに毎年あげていると、マンネリ化しちゃって何をあげればいいのか分かんなくなってきていたし。
『それにしても、意外なものを送ってきたね』 『…だめだった?』 『まさか。すごくうれしいよ』
語気を強めて言う征ちゃんは本当に嘘をついていないようで、どうやら喜んでもらえたようでほっとした。
『スターチスなんて、かわいいことしてくれるね』
そう、私は今年の征ちゃんへの誕生日にスターチスの花を贈ったのである。とはいっても、今は季節じゃないのでドライフラワーなんだけどね。一応、他にも実用的なタオルとかも添えたけど、一番送りたかったのはそれだったから。
『征ちゃんがね、前にメールで「スターチス」って送ってくれたことあったじゃない?』 『ああ、夏にね』 『うん。その時にね、ママに頼んで赤色のスターチスを分けてもらったんだ』 『…そうだったのか』
いつか、いつか、思い出深い「スターチス」の一言で変わらない心を示してくれた征ちゃんに、私もお返しがしたいと思っていた。だけど、それは正直いつになるか分からなかった。それまでにスターチスの季節が終わってしまうかもしれない。だから、ドライフラワーにして一緒に思いも閉じ込めていたんだ。征ちゃんが示してくれた粋なやり方で、私もやり返したいと思っていたから。
『管理するの大変だったよー』 『ふふ、そうだったんだ』 『でも、私も征ちゃんに同じように返したかったから』 『うん、ありがとう、千加』
思ったよりも、うれしいものだな。と征ちゃんは穏やかに呟いた。そう、きっと他のひとだったら大した意味なんて持たないことだ。だけど、私たちにとっては大切な思い出のひとつで、それを覚えていてくれたこと、それを相手も同じように大切にしてくれていたこと、その愛の深さを示すことができるから。
『今、征ちゃんが感じてることと全く同じことを、あの日私は思ったんだよ』 『…千加』 『「私は今でも、変わらない心であなたを思っています」』
…きみは、馬鹿だね。と征ちゃんは小さく呟くけど、征ちゃんがそういう言い方するのはあなたが照れているときって私は知っているんだからね。それって、もっと恥ずかしくないか?ああ、征ちゃんは、かわいいなあ。
『千加』
征ちゃんが真剣な声になって、まるで何か大切なことを言うみたいだったので、私も思わず姿勢を正しながら携帯を握りしめた。
『なに、征ちゃん』
それから、少しだけ間を置いた征ちゃんは静かにこういった。
『いつか必ずきみをもらいに行く』 『……へ』 『僕が結婚できる年齢になったら、必ずきみをもらいに行くから』 『…征ちゃん』 『だから、あと二年、待ってて』
征ちゃん、高校生じゃさすがに結婚はすぐにはできないよ。って思わず照れ隠しに笑ったけど、征ちゃんは逃がしてくれなかった。
『千加』 『…ハイ』 『返事は?』
有無を言わせない感じは相変わらずの魔王っぷりで、もう本当嫌になる。うんかイエスしか求めてないその姿勢に脱帽。まあ、なんていくら御託を並べたって私の答えなんてとっくに決まっているけれど。
『もちろんだよ!征ちゃん、いい子にして待ってるね!』
なんておどけて言ったら、征ちゃんも「っふ、上出来だ」って笑うから、本当にいとしくて幸せな気持ちがあふれ出して止まらない。
『征ちゃんのお嫁さんになったら、今度はちゃんと生花のスターチスを送るね』
ああ、待ち遠しいね。早く、あなたと一緒になりたいな。
『待ってるよ、千加』
――だけど、それはきっと遠くない未来。
『大好きだよ、征ちゃんー!』 『僕は愛してるけどね』
生まれてきてくれて本当にありがとう、征ちゃん。
121220 愛する君へ捧ぐ
le vingt décembre 2012 Bon anniversaire, Akashi!
改めて赤司くんお誕生日おめでとう!これからもありのままのあなたでいてください!それでいつか心から泣いて笑ってくれたらうれしいかな!
たわ言はそれくらいにしつつ、今回アンケートにご協力して下さった方、また最後までお読みくださった皆さま、本当にありがとうございました。こういった形ですが、赤司くんのお誕生日を一緒にお祝いすることができてうれしいです。拙いお話で、正直皆さまに楽しんでいただけたかどうか疑問です。でも書くのは本当に楽しかったです。フランス語なのは私の趣味ですすみません。綴り間違ってないといいけど。
ありがとうございました! Merci beaucoup!
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