※中二の冬はすでに青峰が開花しちゃってる気がしますが、そのあたりはスルーでお願いします。かなり長いですすみません!




「もー!みんな何してんのさー」
「早く片付けないと赤司くん戻ってきちゃうよー!」


12月20日、今日は我らがキャプテン赤司征十郎のお誕生日である。


「うっせーなあ、今どっか行ったばっかだろうがあ」
「いいから青峰くん、さっさとしてください」
「俺、準備できたよ〜」
「ちょ、早くないっすか?!待って下さいッス〜!」
「さっさとするのだよ」


今日、征ちゃんの誕生日を祝うために、顧問の先生にお願いして一時間だけ体育館でお祝いすることを許していただいた。しかもついでに準備の時間のためにちょっとだけ、キャプテンである征ちゃんに連絡事項と称して呼び出してもらっている。先生、まじ感謝。


「ジュースとケーキの準備できたよー」
「げっ!?まさかさつきが作ったんじゃねーだろうなあ?」
「ちょっと、青峰くん!どういう意味!?」
「えーと、ケーキは私が作ってきたけど」
「おお〜、伊藤ちんの作るもん、俺好き〜」


紫くんがそう言ってくれて、それからテツくんや黄瀬くんも同意してくれた。緑くんはため息吐きつつも小さくうなずいてくれていて、相変わらずのツンデレだったけど。ともかく嫌がられていないようで安心した。などと私がひとり胸をなでおろしている横で、さっちゃんが青峰くんにものすごい勢いで往復ビンタをかましていたのは見なかったことにしようか。うん、きっと幻覚に違いないのだよ。


「で、みんなはちゃんとプレゼント持ってきた?」
「バッチリです」
「おう」
「おっけ〜」
「大丈夫っす!」
「後は赤司を待つだけなのだよ」
「もうそろそろ来るかな?赤司くん」


さっちゃんがそう言ったちょうどその時、外から誰かが入ってくる気配がした。みんなで目配せしつつ、せーの!というさっちゃんの掛け声の元、私たちはそれぞれ手にしていたクラッカーの紐を一斉に引っ張った。


ぱーん!


『キャプテン、誕生日おめでとう!』


征ちゃんが扉を開けたと同時に放たれたクラッカーの破裂音と共に、みんなで叫ぶように言った言葉は征ちゃんにちゃんと届いたかな。でも、珍しく驚いている征ちゃんの顔を見ればたぶん答えはイエスだ。


「みんな、ありがとう」


あ、征ちゃん、うれしそう。わずかに微笑んだ征ちゃんの表情は一見すれば、ただの微笑みだ。だけど、それはうれしさのあまり破顔しそうになるのを我慢しているときの、征ちゃん特有の表情だ。私だけが知っている、征ちゃんのかわいいところ。


「いつも通り呼んじゃうと、赤司だったり赤司くんだったりしてみんな揃わないんすよね〜」


なんて黄瀬くんが苦笑した。そうそう、絶対揃わないだろうってみんなで一度合わせてみたら、赤司、赤司くん、赤ちん、赤司っち、征ちゃんとそれぞれ呼び方が違うものだから見事にバラバラになっちゃって、結局無難にキャプテンに統一したのである。


「そうそう、どっかの馬鹿が征ちゃんとか言うせいで、一人だけはみ出やがるからな」
「うるさい、あほ峰」
「なんだこらァ、やんのか伊藤ー!」
「ケンカ売ってきたのはそっちでしょうがあ!」


ケンカ売ってきたのでいつも通り買ってやると、まさかの全速力で追いかけてきたので、こちらも全力で走り抜けるしかなかった。おい!お前部活あとだろうがああ!なんでそんな元気なんだよこの馬鹿がああ!


「なんであんたそんな元気なのー!!馬鹿ー!」
「伊藤は俺をなめすぎなんだよ!」
「こっちくんなー!ゴキ峰ー!!!」
「て、てめえは俺を怒らせたァ!!!!!」
「ひいいいいいいぃぃ」


青峰くんが目だけ嫌に光らせながら、試合並みに全速力で後ろから追いかけてくる様子はまさに恐怖映像である。そんな様子に、テツくんを始めみんな呆れていて、せっかくのパーティーなのに結局いつも通りの光景になってしまって申し訳なくなった。ていうかこんなことしてる場合じゃないんだよ!私は征ちゃんを祝いたいんだ!誰が悲しくて青峰くんなんぞに追いかけられねばならんのだ!


「青峰くん、そのへんにしといたらどうですか」
「そうだよ!何のために残ってると思ってるの!」
「赤ちん怒っちゃうよ〜」


と紫くんの発言で一瞬だけ青峰くんはスピードをゆるめたが、何を思ったか再度加速してきていた。ええええ、今ひるんだんじゃなかったのかよ?なんでまたスピードあげてんのおお。


「いーや、一発叩かないと気が済まねェ」


なんでだああ!いい加減にしてくれよ。そもそも、ケンカ売ってきたのそっちじゃないか。なんで青峰くんの中では全面的に私が悪いことになってんだ。意味が解らない。征ちゃんも首ふりながら、ため息ついてるし。どうすんのよ。こんなつもりじゃなかったのに。


「…っ千加!!!」


あれ?征ちゃん、今私呼んだ?ていうか、なんで慌ててるんだろう?なんて疑問に思ったのは一瞬だけだった。


「…ふぎゅ!」


なんとも間抜けな声を発しながら顔から一気に床に倒れてしまった。そもそも、私は青峰くんから逃げるためにまさに全身全霊をかけて走っていたわけで、つまり換言すればとてつもないスピードで走っていたわけで、その勢いで一気に顔から床にダイブしてしまったのだから当然顔がものすごく痛むわけで。


「…いたひ……」


ぽたり、垂れた赤、つまり血。あ、鼻血出ちゃった。鼻もおでこもすごく痛いけれど、むしろ鼻の骨が折れなくてよかった。鼻血だけでよかった。ああ、反射かな、思わず涙目になっちゃってる。一番に駆け寄ってくれた征ちゃんに支えられながら、ああ、やべえ、これはまずいとひたすらに思っていた。どうすんのこれ、いろいろ台無しじゃないか。


「痛むか?千加」
「大丈夫だよ、めちゃくちゃ元気だよ!征ちゃん!」
「千加ちゃん!はい、ティッシュ!!」
「ありがとー、さっちゃんまじ女子ー」


さっちゃんまじ天使。ていうかそんな現実逃避をしている場合ではないのである。ああ、どうすんだこれ。


「…千加」
「大丈夫、大丈夫だから、征ちゃん、まじほんとう、私大丈夫だから!!」
「………」
「ああああ!征ちゃん落ち着いて、本当大丈夫だからあああ」
「あーおーみーねー?」


ごめん、青峰くん。私じゃあ、こうなった征ちゃんはもう止めらんないや。ご愁傷さまでした。


「お、落ち着けって赤司!別に伊藤が転んだのは俺のせいじゃねえだろがあ!」
「確かに千加が転んだのは、靴ひもが緩んでいたせいだ」
「だろ!?俺のせいじゃねーよ!?」
「しかし、馬鹿なお前が千加を追いかけまわさなければ千加が転ぶことはなかった」
「わ、悪かった赤司ぃぃ!落ち着けって頼むからあああ!!」
「その謝罪は俺ではなく、千加に向けてしかるべきだがな」
「伊藤!!!まじ、ほんと、すまんかった!!!」


あ、うん。大丈夫でーす。とティッシュで血をふき取りつつそう答えるが、たぶんあちらサイドには聞こえてないだろうと思った。征ちゃん、魔王降臨しちゃってるしもう青峰くんを救う手だてはないわ。ごめん青峰くん、ご愁傷さま。テツくんとさっちゃんが心配そうに私を見つめているけど、普通に考えて心配すべきはあっちだからね、あっちの方が最終的には重傷になるからね。


「俺の千加を泣かせた罪は重いぞ、青峰」
「ひいいいぃぃぃ!!!」


青峰くんの断末魔が体育館中に響いた。







「で、大丈夫なんですか、あほ峰くんは」
「あそこで死んでるよ〜」


テツくんと紫くんが和やかに語ってるけど、実際本当に死んだように床に転がってるからね。魂抜けちゃってるからね。征ちゃん、本当何したんだろう。鼻血拭いてて途中からよく見てなかったし、青峰くんもそんな醜態見られたくないだろうしね。それにしてもどうやったら、自分よりも20センチくらいでかい相手をあんな状態にできるのだろうか。征ちゃん七不思議のひとつである。


「ご、ごめんね。征ちゃん」
「気にしなくていい。それより、大丈夫か?千加」
「うん」


あーあ、結局いつも通りじゃないか。何をやってるんだ私たちは。


「ねーねー、いい加減ケーキ食べようよ〜」


紫くんのナイスな一言でようやくパーティーらしくなって、さっちゃんがみんなにジュースを注いで、黄瀬くんがケーキのろうそくに火をつけて(本当は体育館で火はだめだけど)、そしてテツくんが体育館の電気を消した。その間に、緑くんと紫くんで瀕死の青峰くんを回収していた。それから、みんなで体育館の舞台の上にケーキを囲むようにして、それぞれが用意したプレゼントを手に円になって座って準備を整えた。


「で、歌うんですか?」
「本気っすか?」
「もう!歌うにきまってるでしょー!」
「…仕方ないのだよ」
「いいじゃん〜定番〜」


俺はどっちでもいいぞ、と征ちゃんが苦笑する。やっぱりこの年で大きな声で歌うのはちょっと照れくさくて、それでも結局は歌うことになった。


「ていうか、誰が音頭とるの?」
「え!千加ちゃんしかいないでしょ?」
「え!なんで!」
「当たり前じゃないですか、キミしかいません」


黄瀬くんまでほら、早く伊藤っち〜!と急かすから、思わず照れながら「わ、わかった!」と了承すると、横にいる征ちゃんが小さく笑った。


「せ、せーの!」


♪ハッピーバー…


『…………』
「なぜ俺しか歌っていないのだよ!!!!」


まさかみんな裏切るとは思わず、まじめだったのは緑くんだけだった。爆笑するしかなかった。


「仕切り直しだ!!」


と、憤慨する緑くんにみんなはさらに笑った。今度はこういうのはなしでちゃんと歌うことを緑くんにキレながら約束させられた。そして、そんな頃には青峰くんも復活していて、今度はちゃんとみんなで歌い切った。


「「Happy birthday, dear 赤司ー!」」
「「Happy birthday, dear 赤司くん!」」
「Happy birthday, dear 赤ちん〜!」
「Happy birthday, dear 赤司っち〜!!」
「Happy birthday, dear 征ちゃんー!」


結局揃わないのか!!!なんてみんなで笑いつつ、Happy birthday to you.と最後はちゃんと揃えて言って、それと同時に征ちゃんが14本の赤色のろうそくを吹き消した。


『誕生日おめでとう!いつもありがとうキャプテン!!』
「みんな、ありがとう」


ここはみんな練習した通り声をそろえて言えたので、まあよしとしよう。みんながそれぞれ用意したプレゼントを征ちゃんに手渡すと、征ちゃんがうれしそうに笑った。まあ、なんだかんだハプニングあったけど、大成功だったみたいで思わずほっとした。それからついに我慢の限界を迎えたらしい紫くんが「ケーキ〜!ケーキ〜!!」と駄々をこねだしたので、みんなにケーキを切り分けて、みんなで乾杯をした。「ぷはー!うめえ!」なんて青峰くんがビールみたいに飲むから、それを見てみんなでまた笑った


「千加」
「なーに、征ちゃん」
「ありがとう」


ああ、せっかく喜ばしい日なのに泣いてしまいそうだ。それは、私のセリフだよ。征ちゃん、先に言うなんて反則だ。


「征ちゃん、生まれてきてくれて本当にありがとう!」


なんて、征ちゃんと見詰め合ってほっこりしている一方で、もう一組の幼馴染コンビがまた何を言ったのかは不明だが、さっちゃんが青峰くんに往復ビンタをかましていた。テツくんは何故かざまあって顔をしていて、緑くんは呆れながらも微かに笑っていて、黄瀬くんは紫くんにケーキを奪われて泣いていた。そんな様子に、再び征ちゃんと顔見合わせて笑った。


笑顔がいっぱいの、征ちゃん14歳の誕生日だった。


121219
満ち足りた世界のひみつ