せいちゃんー なあに、千加 千加、せいちゃん、だいすき ぼくもだよ、千加 ほんとう? ああ、ほんとうだよ
千加 なあに、せいちゃん おおきくなったら、結婚、しようか
千加、バスケだっていっしょやりたい!
征ちゃん! なあに、千加 わたし、強くなるよ!いつか、征ちゃんに勝てるくらい! 待ってるよ、千加
征ちゃん…私、 …千加 私… ああ、分かってるよ 私、やっぱり、…征ちゃんとのバスケがいちばん好きみたい
すごい!!すごいよー!征ちゃん!かっこよかった! ありがとう、千加 コートの中で、一番かっこよかったよ!!
そんなの、征ちゃんらしくない… 千加、いつから俺に反抗するようになったのかな? …征ちゃん
――もう、お前は必要ない。
「 さようなら、征ちゃん 」
ああ、これは夢だ。酷い夢だ。
*
「…千加」
きみは今、笑っているだろうか。素直に泣けているのだろうか。素直なようでどこか頑固なところがあるから、子供の頃はよく感情をコントロールできずに叫ぶように泣いていたね。だけど、僕がなぐさめてあげると、すぐに花がほころぶように笑うから。そんなきみが、かわいくて、いとおしくてたまらなかった。きみの手を引くのは僕で、きみの笑顔を守るのも僕の役目で。ただ、一途に僕だけを慕ってくれるそんなきみが大好きだった。
「ずっと、いっしょ、…か」
きみがそばにいないこと、きみの笑顔がとなりにないこと、きみの「大好き」が聞けないこと。ただ、それだけのことだ。それでも、なぜ、これほどまで物足りなく空虚な感情を持て余さなくてはならないのだろうか。ただ僕だけを見て、僕だけを絶対的に愛する、恐ろしいほどまっすぐなきみの愛情の甘さに浸り切っていたのだと、痛いほど知った、気付いてしまった。ずっと、僕はきみに追いかけていてほしい、僕を求めて手を伸ばし続けていてほしい、ただ僕だけを見つめていてほしいんだ。千加、千加、僕は今でも、きみだけをひたすらに待っているよ、あの日からずっと今も変わらず。
「千加、XXだよ」
小さく呟いた言葉が、きみに届くわけなどないけれど、それでも敢えて口にしないとおかしくなりそうで、僕はこわいんだ、怖くて堪らないんだ。僕の、この気が狂いそうなほどの、底なしの想いの行き場が見つからない。きみの細胞一つ一つ、きみの過去も未来も、きみに関するすべてのことを掌握していなければ気が済まない。これほどまでの執着なんて、持っていても苦しいばかりで持て余すばかり。ああ、生まれたときから一緒にいたきみをどうして今更僕の人生から切り離せるというのだろう?どうして、切り離せるなんてそんな独りよがりなことを思ってしまったのだろう?
ぼくは、正しい。だけど、ぼくは、馬鹿だ。
さようなら、征ちゃん
――ああ、なんて嫌な夢だ。こんな千加のいない悪夢から、はやく、はやく醒めなくては。
121207 飼い殺しても未だ恋し
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