何故お前は泣くのだろうか。


ルーシィという女はただ笑うばかりで、それ以上は何も言おうとはしなかった。“応える”と言っておいて自ら自分のことをさらけ出そうとはしないようだった。めんどくせえ女だな。だが、おもしれえ女だ。退屈しない女は嫌いじゃない。この女のことがもっと知りたくなった、興味が出てきた。


「ルーシィ」
『何かしら』
「勝つ、とはどういう意味だ」
『…トラファルガー・ロー』
「なんだ」
『あなたを見込んで頼みがあるわ』
「ほう?」
『この島を無事に出航したいなら、私に協力してほしい』


“この島を無事に出航したいなら”、ねえ。それは果たしてどういう意味で言っているのか。それは件の少将とかかわりがあるのか。あるいはこの島全体のこと指しているのか。


「それは脅しか」
『いえ、あくまでこれは頼み、だ』
「つまり何が言いたい?」
『この島を出航できる確率はあくまで1/2。つまり、“できる”か“できない”か。それのみね』
「随分大ざっぱな計算だな」
『こう見えても数字は苦手でね』
「ああ、そんな感じだな」
『だけど、このおざなりな数字も随分的を射ているのよ』
「つまり、ギャンブルだと?」


ともすると、少将は関係ないのでは?ギャンブルはイカサマというものを除けば、自分の運やテクニックを用いて、つまり自分を賭してやるものである。少将の存在は余計だろ。しかもこの女は協力してほしいという。一体どこにその意味があるのか。


『きみたちがこの島に上陸した時点で、すべてはこの島の手中にあるといっていい。この島は歪だ。すべてが歪だ。この島がギャンブルにこだわるその執念がまた歪であるのだけど』
「なにが言いてえんだ」
『つまりね、この島にきみたちが上陸した時点ですでにこの島からは逃げられない。27時間後にこの島から出航できるか、できないか。その賭けに勝たないと意味がない』


そもそも、このレべリルストークは何もかもが二極にこだわりぬいた歪な島である。この島は、ギャンブルの象徴。そのために“赤と黒の町”と呼ばれているのだ。すべて賭け事にこだわったなれの果て。この航路がなぜ難関だといわれているか。すべてはこの島にある。グランドラインに入ってちょうど4番目にあるこの島までの航路は、比較的平易でそれほど困難ではないが、3番目の島からこのレべリルストークを抜け出るまでに約半数の海賊が脱落してしまう魔のポイント。ここはそういう島だ。その一つが、気候。ここまで来るのに何日も嵐であったでしょう?偶発的に起こる嵐に遭って、ここまで辿り着いてもさらに次の関門がある。


「少将、か」


そうだ。まさにその関門こそシュレディンガー少将その人である。若くして少将の地位を受け、数々の戦歴と経験を積んだ彼に相対して勝つことは難しい。


『あの男は温和ふうに見えて、ひどく冷淡な男だ』


人間を駒と思っている。数々の人間を巧みに操っているあの男は底の知れない憎悪を抱えている。彼がこの島にこだわる意味がまさにそこにある。


『あの男は、この島全体を操っている。やつは、この島に来た“悪”を絶対に逃がさない。この島はあの男の妄執のためにつくられた執念の要塞』


レべリルストークは、ギャンブルの町。誰も逃がさない魔の要塞。すべてはただ勝つことしか道はない。


『トラファルガー・ロー』
「……」
『あの男に、勝つために。どうか力を貸してほしい』
「…おれらは無事に出航できるんだろうな?」


灰色の雨をあなたに拭ってほしかった


111204