私の彼氏はいつも横暴だ。


「なまえ、明日は僕の家に来い」
「え」


私が困惑した表情を浮かべたのを見た途端に、征くんは不機嫌になり口を尖らせながら私を非難し始めた。


「なまえは僕の言うことが聞けないっていうの?」
「いや……明日は用事が…」
「明日は部活が休みだろう、僕は明日もお前に会いたい」
「いや…あのさ」
「なまえ!」


ぷくーと膨れながらかわいらしく私を睨む征くんにきゅんとしてしまう私は本当にバカなんだ。征くん、あざといんだよ畜生!


「…夕方からでいいなら」
「いやだ、1日中一緒がいい」
「せめて、午後からで!」
「だめ!」


向こうで実渕さんと葉山さんがプークスクスと笑っているのが見えた。おい、助けてくださいよちょっと!私が睨むと更に笑いを深めやがったのを見て、ついにため息をついた。


「なまえ、僕の話聞いてる?」
「え、ああ、はい」
「じゃあ、明日10時に僕ん家に来ること。これはもう決定事項だ」
「え!」


しまった、嵌められた!と思いつつも時すでに遅し、だ。満足気に満面の笑顔を浮かべて、征くんは無邪気に明日が楽しみだ、と言った。







「いらっしゃい、なまえ」


にこにこ、としまりのない顔で笑うのは、我らが洛山高校男子バスケットボール部の主将である。普段は泣く子も黙るどころか鬼をも恐れる、完璧主義者の生まれながらの勝ち組男である。しかしどういうわけか、そんな征くんになつかれた私はお断りしたのにも関わらずバスケ部のマネージャーにされるわ、気付けば彼女という立場にされているわで、なんだか大変な毎日を送っている。


「お昼ごはん、食べるでしょ?とりあえず適当に買い物してきた」
「本当?湯豆腐がいいな」
「え……昼間からいやだよ」
「いやだ、僕は今湯豆腐が食べたい」
「……」
「湯豆腐」


駄々をこねられるとは予想外だ。とはいえ、晩ごはん用にお豆腐は買っていたので作れることは作れる。出汁とかは征くん家にストックしてあるし。私、征くんのおかげでずいぶん料理の腕が上がったなあと遠い目をしながら、キッチンへと向かった。……一人暮らしのくせに、相変わらず広い部屋だ。もちろん、普通の女子高生の得意料理が湯豆腐というのも十分一般的ではないが……なんちゅうこっちゃ。最初の頃「もっとおいしいほうがいい」「出汁がいまいち」と散々ダメ出しされたかいがあったというものである。







「どう?」
「おいしいよ、腕を上げたね」
「本当?ありがとう」


にこにこと小さな子どものようにうれしそうに笑う征くんに私もつられて自然と笑みがこぼれる。……ああ、かわいいなあ。少し、強引でわがままなのが難点だけど。


「湯豆腐もだけど他の料理も上手くなったし、いつでも嫁に来れるね」
「うん。相手がいればね」
「え、何言ってるの。僕がいるじゃないか」


何を言っているんだ?と首を傾げる征くんにこっちが首を傾げた。何を言っているんだこいつは。私たち、まだ高校生なんだけど?結婚とか考えたこともない。


「バカだな。今さら僕以外の男をお前が好きになれるとでも?」
「…いやいや。それにまだ実際問題、結婚できるまで何年もあるでしょ。先のことなんて、」
「分からないって?それ、僕に言ってる?」
「……征くんが言うと洒落にならないよ」


冗談のつもりはないからな。と言いながら、豆腐を皿によそい、それからうれしそうに口に含み咀嚼する。あんまり幸せそうだもんだから、なんだか。


「僕はなまえが好きだよ」
「……」
「こんな感情を抱いたのは正直きみが初めてなんだ。そして、きっとこれが最後だって確信もある」
「……う」
「僕はもうきみなしじゃ生きられないよ」


あんまり、幸せそうにやわらかく微笑むから、ほんとどうしていいか分からなくなる。湯豆腐をおいしいおいしいと言いながら頬張る征くんとか、「決めた。きみはバスケ部のマネージャーになるんだ」と拒否権なんてまるでないかのように初対面なのに無理矢理私を引きずり込んだ昔の征くんとか、「なまえは今日から僕の彼女だから」と告白とも思えない横暴っぷりを見せた交際スタート日の征くんとか、初めて私にキスをしたときの征くんとか初めて………とにかくいろんな征くんを思い出した。


「僕が死んでもいいっていうなら、なまえの好きにしていいけど」


そうして、やっぱりにこにこしながら「ごちそうさま」と言う征くんを思わず睨む。


「征くんは、ずるいね」
「そうだね。もう直らないかな」
「いつも強引で、暴君で、わがままで、ほんとひどい彼氏だ」
「いいすぎ。当たってるけど」
「入部した日も、付き合うときも」
「断らなかっただろう?」
「断らせなかったんでしょ?」


なんだ、分かってるじゃないか。と征くんがくすくす笑う。それを見て、実渕さんがいつか言っていたことを思い出した。


――征ちゃんがわがままを言うのも、自分以外の誰かを頼るのも、なまえちゃんに対してだけね。


「……分かってるくせに」
「うん?何が?」


――あんなふうに、たくさん笑うのも、なまえちゃんに対してだけだわ。


「私だって、征くんがいないと……困る」


いつからほだされてしまったんだろうか。いつからわがままなこのひとを好きになってしまったんだろうか。分からない、けど。だけど、こんなふうに私の愛を手に入れて、こんなふうに私を愛しておいて、今さら放り出せるわけがない。気付けば、こんなにもいとおしくて、幸せだったんだ。心底うれしそうに私に笑いかける征くんが、大好きなんだ。


「なまえ、今までで最大のお願いだ」
「…うん」
「僕のために、この先もずっとおいしい湯豆腐を作ってよ」
「ふふ!ほんと相変わらず」


ふわり、幸せそうに笑う征くんが、きっとこの先もそばにいるんだろうな。そう思うと、この上なく幸せだと思った。


「大好きだよ、征くん」




ぼくのおねがいきいてください




「よし、歯磨いたら食後の運動をしようかなまえ!」
「…え、やだ」
「いやだ。僕は早くきみに触れたい」
「………歯磨いてこようか」
「永久湯豆腐記念だ、今日はいっぱい甘やかしてあげよう」
「どんな記念日だ!」


私の頬を撫でる征くんにツッコミを入れると、征くんが、あははと楽しそうな笑顔を浮かべた。


「ふふ、今日は人生最良の日だ!」


こんな笑顔がずっと隣で見れるなら、多少のわがままも許してあげようと思う私でした。




130515
わがまま赤司


需要アンケートより、赤司甘
大変遅くなりましたが、このような形になりましたけれどもいかがでしょうか。甘めというかほのぼのな気がしますが。魔王、ではなくわがままなので少し無邪気さ増量にしてみました。アンケート回答ありがとうございました。