「お前のすべては俺のものだよ」


赤司くんはいつもわたしにそう仰います。何度も何度も、くりかえしくりかえし。そう、まるで、呪いのように。


「どうして」


わたしがそう問うと、赤司くんはにやりととても意地悪く笑って、そうしてわたしの頬に爪を立てます。わたしの身体に、魂に、刻み込むかのようなその鋭利な眼差しに身震いがして、わたしは赤司くんのこの底知れぬ征服欲に恐れをなすと同時に、どこか言い知れぬ悦楽を感じていたこともまた真実でしょう。


「お前のすべてを、俺は掌握しているからだ」
「どうして」
「それ以上の意味などないよ」
「………」


赤司くんが容赦なく爪を立てたために、わたしの頬から一筋の血が伝っていきました。ああ、まるで涙のようですね。


「お前は、俺のものだよ」


うれしいです、赤司くん。だけどわたしは一方でとてもとても、悲しくも思います。あなたは酷いひと。あなたは、心からわたしを欲しているわけでは決してないのでしょう。あなたはわたしに恋しているわけでも、況してや愛しているわけでもないのでしょう。あなたは、わたしなんて少しも見ていないのです。


「愛しているよ、苗字」


ええ、存じ上げていますとも。ああ、なんて酷いお人でしょうか。


「わたしもですよ、赤司くん」


あなたが見ているのは、別のひと。あなたがこんなふうに抱きしめたいひとは、わたしではなくて別の、あのかわいらしい女の子なんでしょう。わたしは結局のところ、あの子のただの代わりでしかなくて、そしてあなたがわたしを愛しているというのは決して大切なひととしてではなくて。


「それでこそ、俺の苗字だ」


ただひとつの、忠実な駒としてなんですよね。本当に、あなたはなんて酷い男なのでしょうか。ねえ、赤司くん?




130102
酷い男赤司




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