同級生の福井健介は、わたしのケンカ友達だ。
「ふっくいー!」 「あー?」
福井とは中学から一緒で、よく話しよくケンカする仲だ。なにが原因だったかはとうに記憶の彼方で、もう忘れてしまったけれど、中学一年のときに小さなことでケンカしたのが始まりだった。それから約五年間、顔を会わせれば口喧嘩をしたり悪態をついたりな毎日だ。
「ふっふ!見た、見たよー!見ちゃったよわたしー!」 「はぁ?何が言いてぇんだよ?なにを、見たって?」 「今朝!今朝だよ今朝!」 「あ?今朝がどうかしたかよ?」 「見たんだ!あんたが今朝、女の子にラブレターもらってんの!」
わたしがそう言うと福井は不機嫌そうな顔でにらんできた。ふっふー!ざまぁみろぉ!
「だから、なんだっつーんだよ!」 「めっちゃかわいい子だったじゃん!付き合わんのか?」 「はあああ?お前には関係ねぇだろ!」 「ないね!!」 「威張んなあほ!」 「でもな!気になるもん!!」
だってー、福井が、この福井が彼女できるかもしれないんだよ?!口を開けば悪態ばかり罵りばかりで、全然かわいくない福井にもしかしたらようやく春かもしれないんだよ?!気にならずにはいれない!だって、福井ってばなんだかんだモテるくせに、中学から今まで一度も彼女できたって聞かないもん、いい加減身を固めんしゃい!
「う、うっせーな!お前は俺のおばさんかよ!」 「福井ー、お前彼女ほしくないのー?」 「は、あ?」 「え、本当にいらんの?ホモ?」 「しねブス!」 「あいたっ!」
なによお!殴るこたぁないじゃんかー!相変わらず、沸点の低い男だことー!だから未だに彼女できないんだよ!童貞なんだよ!え、わ!いってーなバカー!!殴りすぎなんだよ福井のバカー!
「わたし、これ以上バカになったら後がないよ!」 「お前があほなこと抜かすからだろうがっ!!!」 「…ちぇー、なによお、ひとがせっかく心配してやってんのに!」 「大きなお世話だっつうの!!」
そうして顔を真っ赤にして怒る福井はまるで赤鬼のようである。お兄さん、せっかくのイケメンが台無しですよー。って、あれ?また赤くなった?福井ってば、今日血圧でも高いんじゃないの?大丈夫?とわたしが福井に触ろうと手を伸ばすと、なにやら更に赤面しながらその手を払い除けられた。
「き、汚ねー手で触んなブス!」 「えー?ブスでごめんな?今さら顔は換えられんのよ」 「……っ、うるせーあほ」 「うん、あほも生まれつきだから治らんかもだわぁ」
わたしがへらへら笑うと、福井は何故か不機嫌な表情になって、それからなにやら真剣な顔で予想外のことを呟いたのであった。
「大体お前もひとのこと言えねーだろ、彼氏いたことないくせに」 「あー?しゃあないじゃん?わたし、ブスであほだもん。分かってる分かってる!」 「そ!……そうじゃ、なくて」
それから、何故かだんまりを決め込む福井にわたしは疑問符を浮かべるしかなかった。んん?なんなんだ?なにを言いたかったの福井くんよ。
「…あー、そうじゃ、なくて、」 「うん?」 「そもそも、俺が、彼女……作らねーのは、」 「作らねーのは?」 「………」 「…福井?どうしたの?」
なんなんだ?また黙りこんでしまったぞこいつ。今日の福井はなにかが変だ。大体、なんでそんな顔が赤いのだろう?今日はむしろ寒いくらいじゃないの、風邪でも引いちゃったのか?そう思い、無意識に福井の頬に手を伸ばして触れた。ほんのちょっと、指先が触れただけだったけど、なぜだかひどく熱かった。
「〜〜っ!!触んなっていってんだろ!!!」 「さーせん、つい」 「ついじゃねーよあほ!」 「いってー!!た、叩くことないじゃん福井のバァカ!!」
それからはいつもの福井に戻ったのか、もう変なことは言わなかったし、変な態度は見せなかった。いつもみたいに「お前のほうがバカだ!」「福井のほうがバカじゃん!」「うるせーブス!」「黙れイケメン!」「い?!だ、だからお前はバカだっつーんだ!!」「どうせバカであほでブスだもん〜」と相変わらずのケンカ日和で、いつもの福井でちょっと安心しちゃったのは内緒である。顔を真っ赤にしちゃったり、言葉につまってたり、よくわからなすぎてどう接したらいいのか悩んじゃうからね。そうして、いつも通りなわたしたちに、クラスメイトが「また夫婦漫才やってのかよ〜」とからかうまでくだらないケンカは続いたのだった。
「うっせえ!!お前らには関係ねーだろうがあ!!!」
わあ!福井、また顔真っ赤にしちゃって!漫才くらいで恥ずかしがることないのにね!
愛と青春のドラマ
130222 あまのじゃく福井
果たしてこやつは本当に福井さんなのだろうか…?これじゃない感が尋常じゃないですね。
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