※中二、みんな普通に仲いい設定
※「修羅のひと」の女の子をイメージしてます。
※もちろんこちら単体でもお読みいただけます。




「どこだテツゥー!!」
「黒子っちー!出てきてくださいっすー!」
「もー!テツくんのいじわるぅー!!」
「全く、困った性質なのだよ」
「黒ちん黒ちん出ておいで〜」


出ないと目玉をほじくるぞ〜!と紫原くんが某少女のようにリズムをつけてボクを誘いだそうとしていますが、絶対に出ていくつもりはありませんからね。青峰くんはいつも以上に悪い顔で邪悪に微笑んでいるし、黄瀬くんはいつになく真剣な眼差しだが一方で口元はニヤニヤとしていて、桃井さんは憤慨しているし、緑間くんは呆れていて、紫原くんはいつも通りマイペースにお菓子を食べているけれど、とてもじゃないがわざわざそんなあやしい彼らのところに出ていくつもりは更々ないです。何をされるか分かったもんじゃない。特に青峰くんのあの顔は、何かいたずらを思い付いたときの悪ガキのそれですからね。


「…まったく」


何故こんなことになっているか、何故ボクが追いかけてくる彼らから逃げるようにしているか。その原因というのをボクは分かっているんです。分かっていて逃げているんです。


「こんなとき影が薄いのは便利ですね」


初めて役に立った気がしますね、バスケ以外では。思えば、ボクのこの性質を見出だしてくれた赤司くんがいなければ、こんなふうに彼らと関わることもなかったんですよね。赤司くんがボクの性質を才能に変えてくれなげれば、ボクは今でも三軍でくすぶったまま、下手をすればあのままバスケをやめてしまっていたかもしれない。そう考えてみると縁というのものは本当に不思議なものですね。


「みーつけたー!」


そういってボクの目の前に現れた彼女も、本来なら出会わなかったかもしれない相手なわけで。


「なまえさん」


ボクがそう呼び掛けると、彼女はいつもの花のような笑顔で、座り込んでいたボクの目線に合わせるようにしゃがみこんだ。ああ、なんてきれいなんでしょう。キミのその笑顔はいつもボクの心をあたたかくしてくれます。見つけるという意味ではキミはいつもボクの一番で、いつもボクの一番近くにいてくれるそんな存在、ボクの大切なひと。


「見つかってしまいましたか」
「テツくん、すぐ隠れちゃうんだもん」
「でも、やはりボクを一番に見つけるのはキミなんですね」


苦く笑いながらボクがそうこぼすと、なまえさんは一瞬だけきょとんと目を丸めて、それからうれしそうな表情を再び浮かべた。


「その一番はまだ誰にも譲れないよ!」


かわいいかわいいキミ、そんなキミが必ずボクを見つけてくれるから、だからボクはつい逃げたくなってしまうんですよ。ボクを見つけたときのその笑顔が見たくて。


「テツくん、今日一日大変だったでしょ?」
「…そうですね、色々ありました」


今日は、朝から大変な一日でした。青峰くんと黄瀬くんには、朝練のときに何を思ったか知らないが、何故か猫耳(ちなみに白)付きの三角帽(パーティー用)を被せられそうになるし(趣味が悪いです)、紫原くんには頭上40センチ上空から大量の飴を降らされるし(結構痛かったです)、緑間くんには今日の水瓶座の運勢を延々と力説されるし(ほとんど聞いてないです)、桃井さんには朝から勢いよく飛び付かれて支えきれず後ろに転んでしまうし(今日イチ痛かったです)、赤司くんとなまえさんには、特に何もされなかったですが(ちょっと寂しかったです)。


「でもみんなうれしいんだよ」
「分かっていますよ、もちろん」


正直嫌がらせかというような人もいたけれど、それがどういうことなのか分かっていますよ、もちろんね。さすがに一年を通して、最後のひとりともなれば分かることですから。


「テツくん」
「はい?」
「つーかまえたー!」


なまえさんはそういって背後からボクを突然抱きしめたかと思うと、なにやらタオルのようなものでボクの目を塞いだ。え、いや、なにも見えないのですが。


「でかしたぞ、なまえ」
「征ちゃん、無事テツくん確保です!」
「よくやった」


あ、この声は赤司くんですね。


「ついに捕まえたぞ、黒子」
「今日一日、大変だったね〜」
「ふふ、そうですね、ついに捕まってしまいました」
「さあ、最後のシメだ」


それから目を塞がれたまま、なまえさんと赤司くんに支えながら移動して、着いた先はおそらく体育館なんでしょうね。ボクが追いかけられ逃げていた理由は、それは今日が特別な日だからで。だけど、ボクはそういうのはどうも気恥ずかしくて逃げてしまうんですよ。まあ、みんながむちゃくちゃだったっていうのもありますが。


「着いたよ、テツくん」
「もう外していいぞ」


そうして、目を塞いでいたものをゆっくりと外した。開けた先でボクが見たのは、眩しいほどの鮮やかなみんなの笑顔だった。あたたかで、やさしくて、ボクの大切なひかり。青峰くん、黄瀬くん、桃井さん、緑間くん、紫原くん、赤司くん、そしてなまえさん。もしかしたら、出会っていなかったかもしれない、こんなふうに関わることもなかったかもしれない、そんなボクの大切な大切な友人たちの、眩しいほどの大きな笑顔で。そんなみんなに、ボクもうれしくなって、ついつい笑みがこぼれてしまった。


『誕生日おめでとう!』


――ああ、面と向かって祝われるのはやっぱりちょっと、恥ずかしいですね。




14年目のきみに


130131
Bon Anniversaire, Kuroko!